「世界をつなぐ『わ』の力」日本古来の「縁」で人々をつなぐ祭「わっさい」の意義

「わっさい」総合演出を勤める菅野こうめいさん 「わっさい」総合演出を勤める菅野こうめいさん

「世界がもう一度『わ』になるために、『わ』になり歌って踊り、思い出を作る」というコンセプトを掲げた東京オリンピック・パラリンピックにおける一大プロジェクト「わっさい」。 この祭典は、2021年7月18日にオリンピック組織委員会公式SNSよりオンライン生配信にて開催される。総合演出を手掛けるのは、演出家の菅野こうめいさん。1985年に舞台『小堺クンのおすましでSHOW』で演出家デビュー。 近年はミュージカルのオリジナル作品にも取り組み、音楽的なセンスの良さと都会的なテンポ感を持ち味に、ショーやコンサート、博覧会、大型スポーツイベント、さらにはユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などのテーマパークの総合演出まで、活躍は多岐に渡る。 東京都の聖火リレーランナーでもある同氏は、エンターテインメントの力を信じると力強く語る。そんな菅野さんがオリンピックにかける思いとは。抱き続けてきた夢と希望、その先に描く世界について話を聞いた。

「和」と「輪」によって生まれる縁を信じたい

「参加と交流で世界中の人たちがつながるようなイベントにしたい。みんなで輪になるの『輪』、日本ならではの『和』の考え方、お祭りの掛け声の『わっしょい』。『わっさい』は、これらのイメージを取り入れて生まれたタイトルなんです」 コロナによって当初の構想からは形を変え、ヴァーチャルに再現されたオリンピックスタジアムから生配信されることになった「わっさい」。けれど根底にあるものは何ひとつ変わらない。「和」と「輪」によって生まれる「縁」をつなぐ。それがこの祭典のテーマである。

「わっさい」は7月18日(日)18時からオンラインで開催される 「わっさい」は7月18日(日)18時からオンラインで開催される

バーチャル画面を通し、世界中の人たちのリアクションをつぶさに感じることができる——そんな新しい形のお祭りを楽しみにしていると菅野さんは語る。 「バーチャルであるがゆえに『あらかじめ収録したもの』と思われるのが一番嫌で。オリンピックスタジアムで起きているお祭りをリアルタイムに体験してもらうことを大事にしています」 リアルタイム合成などの最新技術を用いてつくられるライブパフォーマンス。それらの技術を見せびらかすのが目的ではなく、あくまでもエンターテインメントのエネルギーを感じてもらうのが狙いだ。 「エンターテインメントを届けたい私たちの意志と、エンターテインメントを待っているお客さんの声がお互いに響き合う。生きている人間同士がぶつかり合って“生”を感じることができる。それがお祭りの役割であり、ライブパフォーマンスの意義だと考えています」

2021年のオリンピックは最後のチャンス

日本で初めてオリンピックが開催されたのは、菅野さんが小学2年生の頃。父親は横浜の消防局員で、競技会場の警備を担当していた。

1964年オリンピックで菅野さんのお父さんが受け取った感謝状(菅野さん提供) 1964年オリンピックで菅野さんのお父さんが受け取った感謝状(菅野さん提供)

「そのときの父のネクタイが残っているんですけど、1964年の東京オリンピックのロゴもきれいに刺繍されていて、僕はそれが大好きで。父が亡くなった今でもよく使わせてもらっています。それと、当時小学2年の僕が描いた、重量上げ金メダリストの三宅義信選手の絵が横浜市長賞を受賞したんです。このふたつが僕にとってのオリンピックの原点です」 FIFAワールドカップの他、さまざまなスポーツの大会で総合演出を担当してきた菅野さん。しかし年齢的に、オリンピックを経験することはもうないだろうと思っていた。そこに飛び込んできた聖火ランナーや「わっさい」の話を、菅野さんは「最後のチャンス」と捉えた。 「僕らは2020年に、自分たちが活躍する場をコロナによって奪われました。けれど、エンターテインメントの力を信じてここまでやってきた自分たちの力を信じたい。そしてエンターテインメントを必要としてくれている人たちのためにも、『わっさい』を成功させるんだという気持ちでプロジェクトに向き合っています」

世界はもういちど、「わ」になれる

「現代の社会は、コロナによって間違いなく分断が起きています。だからこそ『わっさい』が果たせる役割は大きい。」 菅野さんは、エンターテインメントの力で分断された社会がひとつにつながることを信じている。それはエンターテインメントの力を信じてきたからこそ思えることだ。人と人との関わり合いや巡り合わせを意味する「縁」は日本独特の感性だと菅野さんは語る。そんな日本で開催されるオリンピックの中で、菅野さんは何を残そうとしているのか。

世界はもういちど「わ」になれるが「わっさい」のテーマとなる。 世界はもういちど「わ」になれるが「わっさい」のテーマとなる。

「今こそ、みんながユナイトする。世界はもういちど、『わ』になれる。これはひとつのメッセージだと思うんですね。輪と和で縁をつなぐ。それをエンターテインメントの力で実現できると信じています」 コロナ禍で分断が起きるたび、いったいどれほどの「縁」が断ち切られてきただろう。失ったものが大きかったからこそ、世界が「わ」になって縁がつながれていく様をもう一度見たいと願うのは、むしろごく自然のことであるように思う。

次世代に伝えていきたい「夢を持つ」こと

「自分自身を信じてほしい」と 「自分自身を信じてほしい」と

何が正しくて何が間違っているのか、自分たちはどうすればいいのか。コロナによってもたらされた混迷の時代。菅野さんの言葉は、そんな暗闇を聖火のように明るく照らしてくれる。 「僕たちが信じるものは、自分しかないんですよ。エンターテインメントを信じてきた自分を信じる。『自分自身のことを信じてほしい』と仲間たちにも話しています。それが世界をユナイトさせることにつながるから」 つながりを生み出し、その先にある光を届けるために全力でエンターテインメントに向き合う人たちがいる。諦めない気持ちの根底には「届けたい」があり、それはやがて「生きること」への道標に変わる。人はひとりきりでは生きられない。多くの「縁」に支えられて、私たちは生きている。 自分を信じ、夢を持ち続ける力が、きっと分断された社会を再生させる。その証明となるのが、つながれていく聖火であり、「わっさい」なのかもしれない。

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