地域を守り、盛り上げるのは農業だ──静岡の若手トマト農家が聖火リレーで背負うもの

富士山の麓・静岡県御殿場市で人気のミニトマトを生産する、農家の芹澤直己さん。芹澤さんのミニトマトは地産地消のロールモデルとして注目され、静岡のメディアにも多数出演している。 地元農業の高齢化を食い止めるべく、さまざまな団体で活躍している芹澤さんは、6月25日に静岡にやってくる聖火リレーにも参加予定だ。「御殿場は元気だと発信したい」と語る芹澤さんに、地元農業に抱く思いや聖火リレーに参加する意味について、話を伺った。

静岡県御殿場市で農業を営む芹澤直己さん 静岡県御殿場市で農業を営む芹澤直己さん

バラ農家から始まったミニトマト栽培

バラ農家だった芹澤さんがミニトマトの生産販売を始めたのは2016年のこと。涼しく穏やかな御殿場の気候を活かしたバラの切り花は自慢の商品だったが、生花は市場価格の変動の影響を大きく受け、思うような値段で売れないこともある。 バラだけに頼らず、地元で長く愛されるような食べ物を作りたいと考えるようになった芹澤さん。思いついたのが、バラの生産に使っていた暖房設備を利用したトマト栽培だった。 「野菜の販売を始めるようになって、自分の売りたい価格で買っていただくことができるのもそうですが、お客さんと直接コミュニケーションをとれるようになったことが何よりうれしいです。うちのミニトマトはいま、市場出荷はせず、ほとんどを市内の皆さんに買っていただいている。SNSなどを通じ、お客さんから食べた感想を直接聞けることもやりがいにつながっています」 いまでは収益の柱となった野菜販売。コロナ禍の影響でパーティーや結婚式などの宴席が少なくなり、バラの需要は大きく減ってしまったが、ミニトマトのおかげでなんとか踏みとどまることができているという。 「野菜に関しても、ホテルなどの大型施設からの注文が減ってしまったので、やっぱり厳しい面はあります。2020年はとにかく不安でしたが、自分で全部売るしかないと気持ちを切り替えて、今年は販路も少しずつ開けてきたと思っています。子どももまだ小さいので、これで食べていかなきゃいけない。地元の人にも支えていただきながらがんばらなきゃ、と思いますよ」

若者が農業に新規参入できる土壌を作りたい

農業や商工業が盛んでない限り、街は元気ではいられない。御殿場市も日本各地の地方都市の例に漏れず、少子高齢化が進んでいる。「農業をこれから始めたい」そんな声が若者から上がることは、正直に言ってあまりないと芹澤さんは言う。 「まともに食べていけず、補助金ありきの事業なのだとしたら、これから農業をやってみたいという若い人が少ないのは当然のことです。農業で地元を盛り上げたい、と口で言うだけではなく、高く売れるものを継続的に作っていけるような方法を私たちが考えなければいけない。ボランティアで仕事はできませんから。現状、比較的育てやすいお米などはよい田んぼさえあれば始めやすいと思いますが、それ以外の農作物でも新規参入しやすい仕組みを作っていかなければと思います」

トマト収穫の風景 トマト収穫の風景

芹澤さんの場合は、バラの栽培に利用していた暖房設備を活用してトマトを作れたことが成功の大きな鍵だった。同じように、既存の設備や土地などを活用することで農業に新規参入しやすくなるのではないかと考えている。 「農業には、地元の景観や環境を守っているという側面もあります。若い人たちにもどんどん農業に携わってほしいけれど、自分たちの生活が苦しければ、とてもそんな風には言えない。だからこそ、自分たちがひとつのロールモデルにならなくてはいけません」

地元への恩返しとして御殿場を走る

聖火ランナーへの応募は、地元の農業仲間たちの推薦によるところが大きかったという。参加が決まったのは2019年だったが、五輪の延期もあり、それから早くも2年が経過してしまった。 「本当に聖火が来るのだと、最近になってようやく実感が湧いてきました。御殿場市には自転車競技の会場になっている伊豆ベロドロームなどもあって、五輪自体はずっと身近に感じていたんですが、いよいよ自分もここで聖火を持って走るのだなと……。延期など本当にいろいろありましたが、やっぱり自分の気持ちとしては、五輪が楽しみであることには変わりはないです。地元の農業や商工業が元気になれば、街も次第に活気づいていくはず。だからこそ、聖火リレーを通じて御殿場の産業をアピールしていきたいです」 聖火リレー当日、地域の思いを背負って走る芹澤さん。御殿場の農協の理事や地元の商工会の青年部のリーダーをしていることもあり、街の名前をアピールし、生き生きとした地元の姿を世界に向けて発信する役割も背負っていると考えている。 「5年後には私も40歳半ばになります。そのときになってこの街に恩返しができていたらいいですね」 そう話す芹澤さんは、街づくりのために、市民と行政がタッグを組む市民協働が必須だと考えている。地元に育ててもらった恩を農業という仕事を通じて返すことで、街の発展に貢献したい――芹澤さんにとっては聖火リレーへの参加も、その種まきのひとつのようだ。彼がまいた種が5年後や10年後、御殿場市、そして静岡でどのように花開くのかを楽しみに待ちたい。

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