「娘を頼みます」若女将を奮い立たせた亡き母の言葉。聖火で街に笑顔を届けたい

21歳の若さで料亭「御殿 當田屋(ごてん とうでや)」の女将を母から引き継いだ、栗田もも乃さん。町づくりにも積極的に参加し、地域活性のために日々力を注いでいる。 オリンピックへの逆風が強まるなか、どのような思いで聖火リレーランナーを務めるのか。美しい着物姿で現れた若女将の強い信念が、そこにあった。

御殿 當田屋(ごてん とうでや)を切り盛りする若女将 栗田もも乃さん 御殿 當田屋(ごてん とうでや)を切り盛りする若女将 栗田もも乃さん

「私が走ることで、鯖江市が少しでも賑わってくれたら」聖火リレーにかける思い

「昨年はどうせなら来年、コロナも完全になくなってスカッとした状態で切り替えて、聖火リレーを走りたいと思っていました。それなのに……」 新型コロナウイルスによる初の緊急事態宣言から、1年あまりが経過した。しかし、パンデミックによる混乱はまだまだ続いている。何度自粛生活を繰り返してもおさまる気配のない今の状況は、正直思いもよらなかったという。 「皆さんにオンライン配信などを見てもらうなど、感染防止対策をした上でやり遂げたいです」 聖火リレーのランナーとして走る。その決断に迷いはないと栗田さんは話す。 「人命が一番大事なのはもちろんなので、オリンピックに関しては開催は難しいんじゃないかな、というのが私の本心です。それでも走るのは地域のため。私が走ることで、鯖江市が少しでも賑わってくれたらと願います」

「なんとかぎりぎりのところでやっている」大雪にコロナウイルス、次々襲いくる困難の壁

「3年前、母が病気で他界しました。私はひとり娘だったので、小さいときから“絶対女将さんになる”と将来の夢を掲げてきました。当初考えていた人生設計よりもだいぶ早かったとは思いますが、いずれはなると決めていたので、何の戸惑いもなくそれまで勤めていた会社を辞め、女将になる決心をしました」 御殿當田屋の女将を継いで3年。住居兼店舗という構造もあって、生まれたときから常連客たちから孫のようにかわいがってもらっていたという。また、学生時代からアルバイトで料理のお運びをしていたため、仕事内容や店の雰囲気には馴染みがあった。しかし、女将として初めて迎えた冬から思いがけない困難が続けざまに彼女を襲う。 「女将修業を始めてすぐの冬が大雪で。料亭は忘年会や歓送迎会で冬が繁忙期なんです。それなのに雪で交通もすべて麻痺して、毎日ぎっしり入っていた何十人ものお客さまのご予約がほとんどキャンセルになってしまって。 それから3年経たない間にコロナになり、大雪のときと同じく繁忙期の2~3月に入っていた大口のご予約が0になりました。第1波のとき、『同じことがまた起きたらお店が潰れるわ』と思っていたんですけど、もう第2波どころじゃない、第4波まできてるじゃないですか」 なんて始まりなんやろう――そう思いながらも奮闘する毎日。長年勤めてくれている従業員の理解と協力に支えられながら、どうにか一緒にここまでがんばってきたという。 「なんとかぎりぎりのところでやっているな、という感じです。女将を継いで3年経ちますが、全然良いペースではなくて。本当に大変なことばっかりで……この状況を一刻も早く抜け出したいです」

「御殿當田屋を守らなあかん」原動力は、母の言葉と顧客の笑顔

栗田さんは、名物女将である母の背中を見て育った。母と話したくて来店する人が大勢いることから、「自分が後を継いだら馴染みのお客さまは離れてしまうんじゃないか」と、当初は不安も大きかった。しかし、その心配は杞憂に終わる。 「母が生前、『もも(私)のこと、かわいがってやってください。よろしくお願いします』と、お客さまに伝えてくれていたそうなんです。私は母の病気のことを諦めていなかったので、本当の最後の最後まで、女将と若女将のふたりでまた一緒に盛り上げるんやろって母に言っていたんですけど、母はどこかしら覚悟していたんだなと。『娘を頼みます』と言われていたとお客さまから聞いたとき、御殿當田屋を守らなあかんなと、改めて気持ちを奮い立たせてもらいました」 顧客の笑顔と、「楽しかった」「美味しかった」「また来ます」というねぎらいの言葉。そして、母が遺してくれた大切な置き土産。それらが何よりの原動力になっていると栗田さんはいう。

お客さんの笑顔を胸に奮闘する若女将(写真:栗田さん提供) お客さんの笑顔を胸に奮闘する若女将(写真:栗田さん提供)

鯖江市には、「JK課」と呼ばれる一風変わった市民協働推進プロジェクトがある。前任の市長が、町づくりから最もかけ離れている女子高生の視点に着目。彼女らが楽しい、面白いと感じるものを形にすることで、自然と町が活気づくのではとのアイデアから発足された。 オリジナルスイーツの制作・販売など、実績は多岐に渡る。栗田さんはその1期生として活動し、その後も卒業生による「JKOG課」を発足するなど、町づくりに精力的に取り組んでいる。 伝統工芸の眼鏡のほか、地域産業も盛んであるという。特に6月のおすすめは、旬を迎える吉川ナスだ。肉厚でジューシーな焼きナスを挟んだ吉川ナスバーガーは、道の駅「西山公園」の名物となっている。

鯖江市の吉川ナス(写真:栗田さん提供) 鯖江市の吉川ナス(写真:栗田さん提供)

魅力の多い町、鯖江市。大切な故郷に少しでも笑顔が戻るようにと、栗田さんは聖火ランナーへの意気込みを語る。 「本当にこの1ヶ月、たくさんの方から『どこ走るん?』『何時にどこ行ったらいい?』と日に何度も声をかけていただいていて。すごく期待されているな、楽しみにしてくれているなと感じています。 自分自身も楽しみでドキドキワクワクなんですけど、人からそう言われるたびに緊張感が増すというか。もう本当にいよいよやな、と。町の人が少しでも笑顔になれるような、温かい時間をつくれたらと思っています」 栗田さんの「走りたい」は、「守りたい」だった。愛する地元の人たちのため、そして家族のため、彼女の奮闘の日々はこれからも続く。

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