被災地から始まった聖火リレートーチのデザイン。復興への祈りと華やぐ未来

3月に福島県からスタートした東京五輪の聖火リレー。ランナーたちがその手に掲げるトーチをデザインしたのは、「ガラスの茶室 − 光庵」などの代表作を持ち、世界的なデザイン賞を数多く受賞しているデザイナー・吉岡徳仁さんだ。 震災の復興への願いを込めたというトーチのデザイン、そして2ヶ月後に開催が迫った東京五輪への思いを聞いた。

吉岡徳仁 アメリカNewsweek誌による「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれている。 吉岡徳仁 アメリカNewsweek誌による「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれている。

桜が日本各地で開花していくような聖火リレーを

すっきりしたシルエットに慎ましい色使い。炎が灯る上部は、5枚の桜の花弁を模している。歴代の聖火トーチには色鮮やかなもの、きらびやかなものも少なくないが、吉岡さんがデザインした東京五輪のトーチは、美しくもシンプルだ。

   聖火リレートーチは、日本を象徴する「桜の花」をモチーフにデザインされている。 聖火リレートーチは、日本を象徴する「桜の花」をモチーフにデザインされている。

「デザインのインスピレーションを受けたのは、2015年、福島県の小学校を訪問し、被災地の子どもたちと一緒に桜の絵を描いたときのことです。まるで桜前線を辿っていくように、桜が日本各地で開花していくような聖火リレーができたらいいな、と思ったんです」

子どもたちが描いた力強い桜の絵に、震災から立ち上がる日本の姿を感じたと吉岡さんは語る。 子どもたちが描いた力強い桜の絵に、震災から立ち上がる日本の姿を感じたと吉岡さんは語る。

余計な要素を足さず、光や音といった自然の素材を最大限に活かすのが吉岡さんのデザインの特徴だ。トーチのモチーフを桜にしようと決めたときも、桜の形に凝るのではなく、桜の花弁から生まれる炎そのものをデザインしたいと考えた。 「試行錯誤の末に思いついたのが、5枚の花びらから生まれた炎がランナーの切る風を受け、トーチの内部でトルネードを起こしてひとつになる、という構造でした。心がけたのは、子どもからご年配の方まで、誰が見ても直感的に桜だと分かるデザインであるのと同時に、聖火の本質をきちんと表していること。個々の花弁が生み出す炎が中心部で一体になることで、世界がひとつになるというイメージです」

アスリートが記録に挑戦するように、デザインでチャレンジをしたかった

聖火リレーで老若男女が掲げるトーチは、ただ美しいだけでなく、持ちやすく扱いやすいことが重要となる。トーチを成形していく際、金属ならではの高い伝熱性をどうするかには特に頭を悩ませた。

トーチの素材は東日本大震災の被災地で役目を終えた復興仮設住宅のアルミニウムが再利用されている。 トーチの素材は東日本大震災の被災地で役目を終えた復興仮設住宅のアルミニウムが再利用されている。

「まったく新しい、これまでにないような作り方をしたいと思い、アルミを桜の形に押し出して削る『押出成形(おしだしせいけい)』という工法を採用しました。溶接などを一切していない一体成形でとても丈夫ですが、炎の熱が伝わってきて、持っているとだんだん熱くなってきてしまう。それを解消するために、炎が燃え続けるに従って持ち手が冷えていくという画期的な技術を使いました。ガスボンベを押し続けると本体が冷たくなるのと同じ原理です」 熱さの他にも重さや大きさなどを考慮した、ありとあらゆるシミュレーションを重ね、トーチはようやく完成した。 「できあがるまでには本当に長い時間がかかりました。実は、デザインを考え始めたのは公募がスタートする以前のことなんです(笑)。仮にトーチのデザインが公募制にならず、考えたものが世に出なかったとしても、オリンピックという歴史的な機会に、時代を超えるようなものを作ってみたいという思いがありました。アスリートの人たちが記録に挑戦するように、自分もデザインでチャレンジしてみたいと」

人と人とが心を通わせ合うことが、五輪の本質ではないか

ランナーたちが掲げるのは、そんな吉岡さんの大きなチャレンジによって生み出されたトーチだ。聖火リレーは2020年の五輪の開催延期を受け、奇しくも2021年3月、震災から10年という節目のタイミングでスタートした。 「やはり被災地に赴いたことがトーチ制作の始まりだったこともあり、被災地の方々が聖火リレーをご覧になることが少しでも元気を出すきっかけになったら、こんなにうれしいことはないです。もちろん、新型コロナウイルスの影響で、今は本当に大変な時期だとは思います。けれど、福島からスタートした聖火リレーを実際に目にしたとき、地元の方が全国からの応援を受けて懸命に走られている姿を見て、本当に素晴らしいと感じました」 トーチの素材の一部には、被災地で役目を終えた仮設住宅のアルミ建築廃材が再利用され、復興への切なる思いが込められている。無駄がないこと、そして、本質的なデザインこそが吉岡さんの信条だという。

コロナ禍を経て世の中がどう変わるのかという問いにも吉岡さんの信条を感じた。 コロナ禍を経て世の中がどう変わるのかという問いにも吉岡さんの信条を感じた。

「昔の人々がものを大切にしたように、自然や植物、動物を大切にするという基本的なことを忘れずに、これからもデザインをしていきたい。これからの時代は、本質を見抜く力が今まで以上に大切になると思います。五輪はもちろんスポーツの祭典ですが、その本質には、人と人とが心を通わせ合うコミュニケーションがあるのではないか、と考えています」 吉岡さんは聖火ランナーとしても、地元・佐賀県を走ることが決まっている。自分がデザインしたトーチを掲げて故郷を走る気持ちを尋ねると、はにかみながらこう答えてくれた。 「どんなものを作るときもそうなんですが、構想しているときはすごく集中してデザインに入り込んでいる分、完成すると自分の手から離れたひとつの作品になるような感覚なんです。だから自分もトーチを手渡される観客のひとりといいますか、聖火を運ぶ一員として、リレーを楽しめたらいいなと思っています」

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