「五輪が悪ならば開催しなくて良い」末續慎吾が思う聖火の価値

北京五輪メダリストの末續慎吾が聖火について語る 北京五輪メダリストの末續慎吾が聖火について語る

北京五輪男子400メートルリレーメダリストで、40歳の今もプロとして競技を続ける末續慎吾さん。東京五輪の聖火リレーでは、故郷・熊本の走者を務める。 コロナ禍による厳しい状況の中、過去3大会に出場したオリンピアンとして何を思うのか。聖火、そして五輪について話を聞いた。

どんな形でも聖火をつなぐことが大事

「人が見ていようがいまいが、たとえ自分ひとりだったとしても、『聖火をつないでくれ』と言われたら、やる。僕はそういう気持ちで走りたいです」 聖火ランナーを務める心境を、末續さんはこう語った。感染が拡大する中で実施されるリレーに賛否があることは理解している。その上で、言葉を慎重に重ねた。 「聖火リレー自体をやらない方がいい、人が集まる場所を作ってはいけない、などの意見はもちろんあるはずです。走者を辞退する方も、それぞれの立場、考え方があっての行動だと思います。 今のような厳しい状況の中で実施されている聖火リレーに対し、国民のみなさんの理解を得るのは難しい。それでも、前回のリオデジャネイロ大会から日本にやってきた五輪の火を、未来につないでいくべきだと僕は思います。 僕個人としては、聖火をどう見せるかという点に興味はありません。リスクを回避するためなら、今までの形式にこだわらず、どんな形でもいい。ただ、火をつなぐ。その行為自体を大切にしたいのです」 聖火はスポーツを尊び、世界平和を願う五輪精神の象徴だ。その火を、ただ粛々と「つなぎたい」と思う理由が、末續さんにはある。

陸上競技のリレー種目では歴代初めてとなる悲願のメダルを獲得 陸上競技のリレー種目では歴代初めてとなる悲願のメダルを獲得

2008年、北京五輪はチベット問題で揺れ、世界中で中国政府に対する抗議が巻き起こった。その中で聖火リレーは世界を巡り、同年4月、1998年冬季五輪開催地の長野にも回ってきた。 末續さんは第2走者として長野市内を約200メートル走ったが、途中で抗議者から生卵を投げつけられる妨害行為にあった。幸い卵は体に当たらず、他にも多数のアクシデントがある中でリレーは完遂されたが、末續さんは政治と人々の怒りが絡む状況に心を痛めた。 一方、選手としてシドニー、アテネ、北京の五輪3大会に出場し、開閉会式に参加する中で平和を実感できた喜びもあった。 「長野の聖火リレーで走らせてもらったり、3大会の式典に出席させてもらったりする中で、さまざまな国の事情、感情がうごめくことを感じることができました。開閉会式では世界平和を願う、ひとつの形を見せてもらっていたのだな、と今になって思います」

五輪が悪ならば開催しなくても良い

今の状況で聖火・五輪は未来につながるのだろうか 今の状況で聖火・五輪は未来につながるのだろうか

一選手として、五輪の素晴らしさを知っているからこそ、日本国民の怒りの矛先が五輪に向いている今の状況を悲しむ。 「僕は、実のところ、東京五輪の開催可否にはこだわっていないんです。もちろん、一アスリートの立場として、開催してほしいとは思います。でも、大きな危険を及ぼす状況になってまでやる必要はありません。人の命が大事です。 ただ、『オリンピックをやめちまえ』という強い感情が五輪に向くことについては、釈然としません。五輪自体が悪いわけではない。コロナ禍だから五輪が危ぶまれているだけですから。 開催後に『五輪は二度と来てほしくない」『五輪があるからこう(悪い状況に)なったんだ」といったマイナスの感情が広がるなら、それがそのまま未来に伝わっていく。五輪という存在そのものが、悪として捉えられるのであれば、やらなくていいとさえ思えます」 踏み込んだ発言は、選手らを思ってのことでもある。 「僕が言いたいのは、大会があってもなくても、後に嫌な感情を残さないようにしたい、ということです。そういう発言をされる方は少ないので、選手は後ろめたい気持ちで競技をやらないといけない。もちろん選手の側も五輪とは何か、自分たちにできることは何か、考えて行動しないといけない。その上で、五輪を後世に自慢できるものとして、残してあげてほしいなと思います」

元オリンピアンが思うアスリートの価値

白血病からのカムバックを果たし東京五輪代表に内定している池江璃花子 白血病からのカムバックを果たし東京五輪代表に内定している池江璃花子

4年に一度の五輪を大事に思い、地道に努力を重ねてきた多くの選手がいる。末續さんは、そのストーリーやプロセスに注目してほしいと話す。 個人的に注目する競技や選手として、自身が過去にメダルを取った種目であり、リオデジャネイロ大会で銀メダルを獲得した男子400メートルリレー、さらに白血病を克服し、五輪代表を勝ち取った競泳の池江璃花子選手を挙げた。 「やはり、リレーにはすごく注目しています。リオデジャネイロで銀メダルを取ったメンバーが、東京の舞台に立てるのかどうか。台頭してきた他の選手もいて、それぞれの選手にこれまで歩んできたストーリーがある。 メンバーはこれから決まりますが、どんな顔ぶれになるのか楽しみです。また、池江選手については、彼女に夢を重ねるとか、何かを背負ってもらうなどは、必要ないと考えています。泳ぐことを純粋に楽しんでほしい、と願っています。 彼女は、少し前まで無菌室に入っていた。そんな人が、水に入って泳ぐこと自体が奇跡なのですから。彼女が復帰するまでのプロセスに、スポーツ選手の価値が集約されている。すごい選手であり、すごい人だなと思います」

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