バルセロナ、アトランタ五輪出場の元マラソン選手・谷口浩美が思う、日本に必要な「共有財産としてのオリンピック」

1991年世界陸上選手権大会で金メダルを獲得した谷口浩美さん 1991年世界陸上選手権大会で金メダルを獲得した谷口浩美さん

1991年の世界陸上競技選手権大会で金メダルを獲得し、1992年のバルセロナと1996年のアトランタの二大会連続でオリンピックに出場した、元マラソン選手の谷口浩美さん。今回、地元・宮崎県の聖火ランナーに選出された。現在は宮崎大学の特別教授を務めている。 「新型コロナウイルスによって、大学の様子も随分と変わりました。授業も対面とオンラインが半々で行われており、キャンパスも学生の姿が少なく、寂しいですね。ただでさえ国民全体の『共有財産』が失われ、一体感を得られにくい時代に、人々の関係がますます希薄になってしまったようにも感じます」

オリンピックが国民の「共有財産」になってほしい

谷口さんいわく「共有財産」とは、多くの人々の連帯感を生む、同じ体験のことを指す。特に、日本人は連帯感から強いパワーを生む国民だからこそ「共有財産」が必要だと考えている。 「スポーツ選手も、たったひとりで戦うのではなく、周囲の応援があるから強くなれる。『応援されて不思議な力が沸いた』と語る選手は日本人くらいです。一致団結することで、個々人の力が何倍にもなる国民だという証拠ではないでしょうか。さらに、相手を思いやる助け合いの精神も、連帯感から生まれてくるものだと思います」 コロナという大きな壁に立ち向かわなくてはならない今こそ、国民の連帯感を育む「共有財産」は必要だ。しかし、その機会が年々失われていることも痛感しているという。 「例えば、僕の世代だと『ラジオ体操』の音楽が流れれば自然と身体が動きます。これもひとつの共有財産です。ただ、今の世の中では小学校でのラジオ体操でさえ、近隣住民からの苦情でできない。個人主義が進みすぎているのではないかと感じます。だからこそ、今回の東京オリンピックが、国民の新しい共有財産という立ち位置になってくれることを願っています」

コロナ禍は「選択する力」を身につけるチャンス

世界陸上での優勝や、二度のオリンピック出場という谷口さんの活躍も、国民の「共有財産」のひとつ。多くの希望を与えてくれた活躍には、実はこんな裏話が。 「大学卒業後は保健体育の教員になるという夢がありました。だからオリンピックについては、25歳まで考えたこともありませんでしたよ(笑)」 教員採用試験がうまくいかなかったため、当初はある意味、消去法的に「マラソンで世界へ」という道を選んだという。 「当時、同じ実業団のチームには既にオリンピック選手として活躍していた宗茂・宗猛兄弟がいました。このふたりと同じことができればオリンピックに行けるだろうという発想の下、練習に励んでいましたね」

教員を目指していたからこそ理論的にマラソンを考えていたと谷口さんは語ってくれた。 教員を目指していたからこそ理論的にマラソンを考えていたと谷口さんは語ってくれた。

28歳で挑んだソウルオリンピックの選考会では、選手に選出されないという挫折も味わった。しかし、4年後を見据えてその後も諦めなかったことで、オリンピックへの切符を掴む。谷口さんがオリンピックに出場できたのは「日常の継続」と「戦略的マラソン」をしていたからだと自身を分析する。 「陸上はスキルよりも『日常の練習をいかに継続してきたか』が大切な競技です。例えば、小学生の頃に足が速かったとしても、大人になって久しぶりに走っても速いままという方はいませんよね。努力の継続がこんなにも結果に表れる競技はありません。特に、僕の現役時代は監督もコーチもスパルタ教育が当たり前。叱咤激励こそ指導という考え方でした。今思えばその厳しい指導があったからこそ、僕も努力することを『日常』として続けられたのかもしれません」 「戦略的マラソン」とは、競争相手の弱みや行動パターンを把握した上で、どこで自分が抜かすことができるかを、あらかじめ考えてからレースに挑むこと。そのために情報収集は欠かせない。 「僕は、マラソンは『技術』ではなく『性格』で走るものだと思っています。だからレース前に相手の情報はできるだけ多く頭に入れていましたし、レース翌日には全国紙からスポーツ紙まで、全ての新聞を購入。各紙の記者がどのようにレースを解説しているかをチェックし、さまざまな角度から相手選手や自分の走りを研究していました。異なる視点から見た自分の強み、弱みを吸収し、次のレースの戦略を練っていましたね」

アトランタ五輪ではアクシデントに見舞われながらも8位入賞。 アトランタ五輪ではアクシデントに見舞われながらも8位入賞。

谷口さんの現役時代に比べ、今は多くの情報に簡単にアクセスできる時代となった。最近ではトップアスリートがYouTubeで競技指導を公開しているほど。だからこそ「選択する力」も必要にもなってきている。 「全ての情報を鵜呑みにするのではなく、今の自分にとって何が必要で何が不要かの判断は常にしなければいけません。これはアスリートだけでなく、現代人なら誰しもが必要とするスキルだと思います。しかし、選択が難しいからといって何も吸収しないのでは成長はしません。たとえ選択に失敗しても、自分の中に『間違い』としてストックさえしていれば大丈夫。井の中の蛙でいるのではなく、情報にどんどん触れて選択する経験を積めば、必ず前に進めます。特に、自分自身について深く考える時間があるコロナ禍は、自分に何が足りないのかを把握し『選択する力』を、養うときじゃないでしょうか」

聖火リレーで国民の「思い」を繋ぐ

谷口さんが聖火リレーランナーに選出されたのは、今回が初めて。 「聖火リレーで全国を巡り、国民の『思い』を繋ぐからこそ、オリンピックが国民の共有財産になるのだと思います。1964年の東京オリンピック当時、僕は4歳でしたが、日南市には聖火が来ませんでした。そのせいもあってか、地元ではなんとなく『オリンピックは東京だけのもの』という雰囲気があったそうです。でも、今回は聖火が来る。当日は、遠くから一目でもいいので、見てほしいなと思います。そして日南市で見た火が東京の国立競技場の聖火台に灯されたとき、一生心に残る体験となるはずです」 一人ひとりが直接的に繋がることが難しくなってしまった世の中。目に見えなくても「想い」は、繋がることができる。聖火が無事全国を巡ったとき、国民の連帯感が増していると信じたい。

谷口さんは言った「嫌なことだけを共有しているコロナ禍だからこそ五輪が必要だ」と 谷口さんは言った「嫌なことだけを共有しているコロナ禍だからこそ五輪が必要だ」と

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