「仲間の引退、監督の退任、祖父との別れ。激動の1年を越え、ホッケー姉妹が聖火に込めた決意とは?」

日々の報道やSNS上では、東京オリンピック開催に対し、反対の声も少なからず上がっている。ホッケー女子日本代表を務める永井友理・葉月姉妹にも、コロナ禍で開催される五輪を多くの人に応援してもらえるのか、今の状況でスポーツを続けていてもいいのか──という葛藤があった。コロナ禍の五輪をふたりはどう捉え、気持ちを新たにしてきたのか。永井姉妹が振り返る。

ホッケー日本女子代表を牽引する永井友理(写真右)葉月(写真左) ホッケー日本女子代表を牽引する永井友理(写真右)葉月(写真左)

コロナ禍の五輪を応援してもらえるのか、不安だった

「自分たちのわがままだけを言ってしまえば、オリンピックは何があっても開催してほしい。けれど、周囲や世界の状況を見ていると、開催されたとして本当にみなさんに応援していただけるのかと不安に思います。ただ、私たちはこれまでずっとホッケーだけをしてきました。わがままかもしれないけれど、その努力を見てもらえないのかもしれないと思うと悔しくて……」 姉・友理さんは言葉を選びながらそう語る。永井家は、生粋のホッケー一家だ。父・祐司さんは永井姉妹が所属するホッケー女子日本代表チーム「さくらジャパン」の現監督。母・理重子さんもかつてはホッケー女子日本代表選手だった。 幼い頃からホッケーに慣れ親しみ、2016年のリオ五輪を経て、東京五輪での金メダル獲得をより強く意識するようになったという永井姉妹。オリンピックの延期は、ふたりにとって大きすぎる打撃だった。 「1年の延期というのは、アスリートにとって非常に大きなことです。コンディションを2020年に合わせてこれまでやってきていたので。最初はただ、どうしようと戸惑いました」(友理さん)

日本代表のエース、FWの永井友理(28) 日本代表のエース、FWの永井友理(28)

「いざ2021年の延期開催が決まっても、姉が言ったように、みなさんが応援してくださるかどうかは不安でした。『開催しない方がいい』という方々と自分たちの気持ちとの間に立っているという感覚は、今でも変わりません」(葉月さん)

攻守の要、MFとして活躍する永井葉月(26) 攻守の要、MFとして活躍する永井葉月(26)

代表選手の引退、監督の退任──受難の1年間

さらにこの1年の間に、代表チームの精神的支柱でもあった小林(旧姓:小野)真由美選手は悩んだ末の引退を表明。チームと3年の月日を共にしてきた監督のアンソニー・ファリー氏も、契約満了で退任している。そんな周囲の変化に対し、「正直、引退はまったく他人事ではなかった」と友理さんは語る。 「何かもう少し心が折れるようなことがあれば、自分にもそういう選択肢はありえただろうと思います。さくらジャパンはリオ五輪で結果を残せなかった分、東京でもう一度頑張ろう、と結束を固くしたチームです。1年前に開催されていたら一緒に出られたのに、と思う選手がいることは、やっぱり辛かったです」(友理さん) 「私たちは、今年(2021年)1月に祖父を亡くしているんです。ホッケーが大好きで、私たちのこともずっと応援してくれていました。五輪も聖火リレーも、昨年出られていたら祖父に見せられたのにという悔しさは今でもあります」(葉月さん) 五輪への出場が叶わなかった選手や、五輪を見ることのできなかった人たちの存在は大きい。しかし、それこそが、姉妹が前を向く原動力にもなった。

小林(旧姓:小野)真由美(写真左)も東京五輪を待たずに引退を決意。 小林(旧姓:小野)真由美(写真左)も東京五輪を待たずに引退を決意。

「何かもう少し心が折れるようなことがあれば、自分にもそういう選択肢はありえただろうと思います。さくらジャパンはリオ五輪で結果を残せなかった分、東京でもう一度頑張ろう、と結束を固くしたチームです。1年前に開催されていたら一緒に出られたのに、と思う選手がいることは、やっぱり辛かったです」(友理さん) 「私たちは、今年(2021年)1月に祖父を亡くしているんです。ホッケーが大好きで、私たちのこともずっと応援してくれていました。五輪も聖火リレーも、昨年出られていたら祖父に見せられたのにという悔しさは今でもあります」(葉月さん) 五輪への出場が叶わなかった選手や、五輪を見ることのできなかった人たちの存在は大きい。しかし、それこそが、姉妹が前を向く原動力にもなった。 「もちろん祖父の死や、周囲の選手の引退は辛いです。でもその経験を経て、いろんな人たちの思いを背負って今の自分たちがいる、という思いはより強くなりました」(友理さん) 「私も同じ思いです。家族やチームメイトはもちろん、応援してくださる方々に支えられて乗り越えることのできた1年でした。だから五輪で私たちが活躍することこそが、周りの方々への恩返しになるはずだと思っています」(葉月さん)

より強くなった五輪への思いを抱き、各務原を走る

2020年を経て、気持ちの整理はついたとふたりは口を揃える。全ての人が応援してくれるムードではないことは分かっているから、開催に懐疑的な人の気持ちも否定したくはない。けれどコロナ禍で落ち込んでいる人たちに、スポーツの力で少しでも元気を与えられたら──。姉妹はそう語る。

新監督とともに新たなチームづくりに邁進している 新監督とともに新たなチームづくりに邁進している

「今は、2020年よりもさらにレベルアップした状態でオリンピックに向き合えるはずだという自信があります。さくらジャパンの新監督にも、3月にようやく対面できました。もちろんこれまでとは異なる部分もあるんですが、代表選手たちはみんなとても理解が早いので、新しい考え方や戦術もどんどん浸透していっています。これからいいチームができていく予感がしています」(友理さん) 今までは、周囲の人々に支えられ続けてきた。次はオリンピックでの活躍を通じ、自分が勇気や夢を与える側になりたい、と友理さん。 「金メダルをとりたいという大きな目標はもちろんですが、フィールドホッケーというスポーツをよりメジャーにしたい、という思いも個人的には大きいです。先日、子どもを対象にしたホッケー教室を岩手で開催したところ、たくさんの子どもたちが『私、さくらジャパン目指してます』『サムライジャパン目指してます』って言いに来てくれたんです。それがすごく嬉しくて。そう思ってくれている子どもたちのためにも、オリンピックという舞台で活躍して、ホッケーをもっともっとメジャーなスポーツにすることが自分たちの役目だと考えています」(葉月さん)

歓喜の瞬間を目指し、さくらジャパンのメンバーと聖火をつなぐ 歓喜の瞬間を目指し、さくらジャパンのメンバーと聖火をつなぐ

4月には、出身地である岐阜県・各務原市で聖火リレーのランナーを務める永井姉妹。昨年よりもさらに強くなった思いを抱き、ふたりは故郷を走るつもりだ。 「みなさん、とはさすがに言えないけれど、オリンピックを楽しみにしてくださっている方には五輪のスタートを笑顔で見届けてほしい。私たちも代表として活躍します、という強い気持ちを持って、楽しみながら各務原を走りたいと思っています」(友理さん)

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