パラリンピック選手との出会いで世界が広がった――聖火に希望を抱く草津の夫婦

東京五輪の聖火リレーコースで、3月31日にランナーが訪問する群馬県草津町。日本有数の温泉街であり、観光業が主な収入源であるこの街も、今なお新型コロナウイルス(以下「コロナ」)による甚大な影響を受けている。 この街で、小さなゲストハウス「シーダーロッジ」を営む椎名崇(たかし)さん、真里(まり)さんご夫婦も、コロナ禍でこれまでにない苦境を経験していた。

シーダーロッジを営む椎名崇・真里ご夫妻 シーダーロッジを営む椎名崇・真里ご夫妻

コロナ禍で不安な日々を過ごしてきた

「一度目の緊急事態宣言が出された2020年4月から5月にかけては、草津に人っ子ひとりいない状況でした。周りのホテルなどもほぼ休業。うちも1ヵ月半ほど休業し、経営状況がどうなるかわからない、不安な毎日を過ごしていました」 最も苦しかった時期をこう振り返る崇さん。その後、2020年9月の「Go To トラベルキャンペーン」開始により、一時は街に活気が戻ったという。 「9月頃はお客様が増えて、平日でも例年のゴールデンウィーク並みの活気がありました。とてもうれしかったのですが、どうしたらお客様にコロナの不安を感じさせず、安心して過ごしていただけるかという悩みが新たに生まれました。お客様の間でも、コロナ対策意識に差があり、すべてのお客様に快適に過ごしていただくための対応に苦労しました」(崇さん) 「例えば、マスクをされている方とされていない方が館内にいた場合、お互いが良い気持ちで過ごすためにはどのようにご案内すべきかなど、これまで経験したことがない状況にも多々直面しました。それで、館内を全館消毒したり、空気清浄機を導入したりしたんです。何が正解かわからない状態で、今でも試行錯誤を繰り返していますね」(真里さん)

アメリカ・ミシガン州直輸入のホワイトシーダー材で建てられている アメリカ・ミシガン州直輸入のホワイトシーダー材で建てられている

「シーダーロッジ」は、木のぬくもりを感じる落ち着いた館内に客室が6室のみといった、ぜいたくで心地よい空間が売り。大浴場では草津温泉から引いた温泉を楽しめるだけでなく、フィンランドサウナもあり、気軽にロウリュを体験できる。現在も満室にならないよう、常時3組程度の予約に抑えているという。 「2名様からの貸し切りもできるので、ご家族だけのご利用も増えました。ひとときでもコロナを忘れて安心してくつろげるとのことで、好評です。ありがたいことに5月までは予約が入っているのですが、この状況がいつまで続くのか……。満室にはできないジレンマもあります。先を見通せず、正直、不安は拭えないですね」(崇さん)

浴場ではフィンランドサウナが楽しめる 浴場ではフィンランドサウナが楽しめる

パラリンピック選手との出会いで、世界が広がる

現在進行形で続くコロナの影響。終わりが見えない中で、聖火リレーは椎名さんご夫婦の希望のひとつになっている。「東京五輪のシンボルが草津にも来て日本全国を回るのはロマンがある話だなと思います。聖火リレーは感染対策をしながら見に行きたい」と前向きに捉えるおふたりは、特にパラリンピック開催に対し、強い思いを抱いていた。 「以前、ブラインドサッカーやチェアスキーなどのパラリンピック選手が宿泊に来てくださったことがあるんです。彼らに出会ったことで、考え方が大きく変わるきっかけになりました」(崇さん) 野球やゴルフなどのメジャースポーツが好きで、それらを中心に観戦していた崇さんは、彼らと接することで、パラリンピックにも強い興味を抱くようになったという。選手の笑顔や常に前向きな姿勢と、自分が競技するスポーツを熱く語る姿に触れるうちに、一般的には“ハンデを抱える=逆境”ととらえられる状況の中で、明るく情熱を燃やす様に胸を打たれた。 「私はこの仕事をしていて、たまたまご縁があって、パラスポーツの素晴らしさを知ることができましたが、日常生活で接点がない方も多いかと思います。そんな方向けにパラスポーツの魅力を表現する場としても、パラリンピックはなくてはならない存在。コロナで大変なときだからこそ世界中が勇気をもらえる希望の場であると思うんです」(崇さん)

フレンチのシェフである崇さんが腕をふるう地元の素材を存分に活かしたディナー フレンチのシェフである崇さんが腕をふるう地元の素材を存分に活かしたディナー

真里さんもパラスポーツ選手との交流を通し、考え方が変わった。 「彼らは目が見えなくても、何不自由ない様子でご飯を食べます。また、車にも軽々と乗ります。彼らのそういった『当たり前』を初めて目にして感動しました。それまでハンデがある方に接する機会がほとんどなかったので、世界が広がった感覚です。今まで自分はハンデがある方のことを何も知らなかったなと気づかされました。彼らが帰った後もしばらくは心の高揚が止まらないほどでしたね」(真里さん)

草津が聖火リレーのコースに選ばれた喜び

だからこそ、草津が聖火リレーのコースとして発表された際には、喜びもひとしおだったという。 「『あの聖火がアテネから自分たちの街にも来るんだ!』と驚きました。何年も受け継がれる聖火は夢がありますよね。生で見たらその歴史の重みをさらに感じるのだと思います。本当にオリンピック・パラリンピックが開催されるんだというワクワク感も増しますよね」(崇さん) 「コロナが落ち着いていれば……とは思います。本当だったら今頃すごく盛り上がっているはずなのにという悔しさすら感じますね。ですが、がんばってきた選手たちのためにも全力で応援したい。ここから終息に向かっていくぞ! という希望を胸に、草津を駆ける聖火リレーを見届けたいと思います」(真里さん) 「私たちはもともと、スポーツには熱くなるタイプなので(笑)」と語るおふたりは、シーダーロッジを象徴するような優しい笑顔で微笑む。 椎名さんご夫婦はコロナの終息を願いながら、今日もこの街で「聖火」のような温かいおもてなしでお客様を迎えている。

コース紹介&インタビュー一覧

関連リンク