日本で唯一、聖火とSLの共演。真岡鐵道広報が聖火に託す思い

茨城県筑西市と栃木県茂木町を結ぶ、全長42kmのローカル線、真岡鐵道。観光列車「SLもおか」はここで平成6年に走り始めた。旧国鉄時代製造のC1266を復活させた車両は、27年間に渡り人々に夢とロマンを与え続けてきた。 地元の人たちだけでなく、全国の鉄道ファンから愛されているこのSLは、3月28日から始まる栃木県内での聖火リレーと並走する。日本で唯一、SLと聖火が夢の共演を果たすことになる。 「『SLもおか』を世界中に知ってもらう一世一代のチャンスです」と、真岡鐵道の広報担当、竹前直(あたる)さんは目を輝かせる。

「このままではSLが忘れられてしまうかも」

「私は真岡市出身で、『SLもおか』と同い年。そんなご縁もあって、幼い頃からよくSLを見に来ていました。そのときの記憶が鉄道人生の原点です。物心ついた頃から鉄道が大好きで、中でも車輪がダイナミックに回る姿が魅力的なSLに、どんどん没頭していきました。そして大人になるにつれ『SLに関わる仕事がしたい』と、強く思うようになりましたね」

「好きなことが仕事にできていることは幸せ」と笑顔で語る竹前直(あたる)さん 「好きなことが仕事にできていることは幸せ」と笑顔で語る竹前直(あたる)さん

大学卒業後、一度は建設コンサルタントに就職したものの、夢を諦められずに新卒2年目で真岡鐵道へ転職。広報として「SLもおか」の魅力を発信している。真岡鐵道の広報になって4年目の春を間もなく迎える今、昨年から続くコロナの影響を振り返る。 「昨年度の上半期は、乗客数が前年比の6割にまで落ち込みました。特に1回目の緊急事態宣言時には沿線高校の休校があったので、収入の大部分を支えていた定期券購入が減り、経営的にもかなりの痛手。でもそれよりも辛かったのは、長期にわたるSLの運休でした。1回目の緊急事態宣言では3月から7月中旬まで、2回目は1月から3月12日まで運休。あまりに静かな休日が続き、このままではSLが人々から忘れられるのではないかという恐怖がありました。沿線の方からも『もう必要ない』と思われて、SL事業が終わってしまうんではないかと」 以前、真岡鐵道では2台のSL車両を保有していたが、一昨年、うち1台を他社に譲渡したばかり。1台となったSL車両の存在感を示すために、より一層頑張っていこうと、社員一丸となっていた矢先でのコロナの直撃。辛い運休中の心の支えは、もちろんSL。 「運休中もメンテナンスとして、定期的に動かすことがあったのですが、その姿を見ると『こいつのためだったらもう少しがんばらないと』とやる気を出していました」

緑とオレンジが鮮やかな真岡鐵道の車両 緑とオレンジが鮮やかな真岡鐵道の車両

「乗車いただく方の安全第一が鉄道事業者の責務」

そして二度目の緊急事態宣言が開け、3月13日に「SLもおか」は再始動した。 「これまで全席自由席で、いつでも乗れるのがひとつの売りでした。多ければ300人くらいの方がSLの乗車にいらしてくれたこともあります。ですが、昨年月に運行が再開されたときから座席数を半分にしています。インターネットでの事前予約制にも踏み切りました」 予約制にしないと、せっかく来てくれた人に、「今日はもう定員で乗れません」と伝えることもあり得るためだ。それはあまりにも申し訳ない、と竹前さんは葛藤を抱えた表情を見せる。 「社内でも議論を重ねた末の、苦渋の決断です。私個人としては、将来的にはこれまで通り全席自由席に戻し、誰にでも開かれたSLにしたいという気持ちがあります。しかし、利用される方の安全第一が鉄道事業者の責務。コロナと共存していかなければいけない中で、ファンとして乗車してくださる方の安全を最優先させていただきます」 現在、予約上限の8割程度は埋まる日が多く、一時期よりは経営面でも安定しているという。支えているのは全国の鉄道ファンだ。 「以前のメイン客層はお子様連れのファミリーの方々でしたが、現在はイベントの度に鉄道ファンの方がいらしてくれることが増えました。僕も鉄道好きなのでわかるのですが、『好きな鉄道会社を少しでも応援したい』という思いを持っている方は少なくないんですよ」

3月28日の本番へ向けて「SLもおか」の準備は万端 3月28日の本番へ向けて「SLもおか」の準備は万端

聖火との並走で「SLもおか」を世界へ!

いち鉄道ファンでもある竹前さんの仕事の軸は、「この素晴らしいSLを多くの方に知ってもらいたい」からブレることはない。そのためにSNSの発信も、こまめに行う。真岡鐵道の公式Twitterアカウントは、現在フォロワー数1万5千人を超える人気アカウントだ。日々の運行情報だけでなく、乗客が撮った写真の紹介など、フォロワーとの積極的な交流も魅力のひとつ。 「Twitterではお客様からご要望が届くことも。そういった声も社内で共有して、事業に活かしています。今年はSLが車検に入る期間が発生するので、その間もSNSを活用して、乗れなくてもSLを楽しんでいただけるよう、情報発信に力を入れていきたいとも思っています」

聖火との並走の瞬間は見逃せない 聖火との並走の瞬間は見逃せない

そして今回の聖火リレーとSLもおかの並走。茂木町では聖火ランナーとSLが交差するポイントもあり、「SLもおか」を世界に伝える絶好のチャンスが訪れた。 「聖火との並走という素晴らしい機会を用意してくれた茂木町には感謝しています。当初は、道の駅を通るくらいかと思っていたので……(笑)。『SLもおか』には、この夢のステージを演じ切ってほしいと思いますね。最近は運休や乗車人数制限などのネガティブな話題が続きましたが、まだ真岡にはSLが走っているぞ! 1台でもがんばっているぞと。『真岡にSLアリ!』と皆さまに伝えたいです」 当日、竹前さんは客車に乗車予定だ。「その日も仕事ですが、聖火が通る瞬間を目に焼き付けようと思っています」 かつての鉄道少年は夢を叶え、聖火のように熱い「鉄道愛」を心に灯している。

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