東京オリンピック・パラリンピック、聖火リレー延期後の日程を更新しました(9/30)。聖火リレーの市区町村ごとの日程やルートについては、正式発表後に更新します。

「歩みを止めない」東京五輪のレガシーとしてLGBTQセンターを開設した理由とは

2020/10/12 9:30

サッカーの「ミーガン・ラピノー」、水泳の「イアン・ソープ」、ハンドボールの「ハンナ・マウンシー」これらの選手には共通点がある。

それは、セクシュアルマイノリティであることを公言しているスポーツ選手だということ。

日本では「LGBTQ」であることを公表しているスポーツ選手はほぼいない。同性愛者等の選手はカミングアウトしにくく、トランスジェンダーに関してはスポーツそのものへの参加のハードルがより高いからだ。

実は、スポーツという領域は「ファイナルフロンティア」と称されるほど、セクシュアルマイノリティにとって安心できる場ではない現状がある。

そんな状況を打破しようと、東京オリンピック・パラリンピックを機に、LGBTQに関するホスピタリティ施設「プライドハウス東京レガシー」が今春、東京・新宿にオープン予定"だった"。

「プライドハウス東京レガシー」プレスリリースよりキャプチャ

しかし、新型コロナウイルスの影響により、東京五輪は延期に。今年「プライドハウス東京」の開催は見送られることになっていた。

特にセクシュアルマイノリティにとっても、新型コロナウイルスによる被害の影響は大きい。プライドハウス東京が行った調査によると、LGBTQユースの約4割がセクシュアリティについて話せる人・場所と繋がれなくなったと回答している。

プライドハウス東京代表の松中権さんは「LGBTQの子ども・若者にとって喫緊の課題」と語る。

松中さんらは、急遽「国際カミングアウトデー」の10月11日に、"リアルな場"として、「プライドハウス東京レガシー」をオープンすることにした。

なぜこのコロナ禍に、あえてリアルな場を開設しようとしたのだろうか。

「プライドハウス東京」代表の松中権さん。2001年から16年間電通に勤務、五輪担当も経験した。ゲイであることを公表、2010年にNPO法人グッド・エイジング・エールズを設立。

LGBTQのアスリートに立ちはだかる壁

オリンピック・パラリンピックの場で初めて「プライドハウス」が設置されたのは、2010年、バンクーバー冬季五輪の時だった。

スポーツ界に同性愛やトランスジェンダーに対する差別や偏見が根強く残っていることを背景に、LGBTQのアスリートやサポーター、コミュニティのセーフスペースとして地元のNPOが開設したことが始まりだという。

松中さんは、チームのメンバーやスポンサー、サポーターなどさまざまな関係性の中でプレーするLGBTQのアスリートは「もしセクシュアリティがバレてしまったら、自分の居場所がなくなってしまうのではないかと怯えながらプレーしています」と語る。

「教育におけるスポーツの現場でも、LGBTQの子どもたちが学校のどこでいじめを受けたかを聞いたアメリカの調査によると、トップ3が運動場と体育館、そして更衣室でした。当事者の子どもたちはスポーツへのアクセスが閉ざされてしまっています」

東京オリンピック・パラリンピックへの出場を予定している選手で、LGBTQであることを公表する選手はゼロ。このことからも、いかに日本のスポーツ領域でのカミングアウトが難しいかがわかる。

「プライドハウス」はバンクーバー冬季五輪以降、リオや平昌の際も設置され、「プライドハウス東京」もそのバトンを引き継いだ形だ。さらに、今回はプライドハウス史上初めて、オリンピック・パラリンピック組織委員会から「公認」を受けたプログラムだった。

しかし、新型コロナウイルスの影響による五輪延期の発表を受けて、プライドハウス東京も今年の開設は断念せざるを得ない状況となった。

2016年のリオ五輪で設置されたプライドハウスの様子(プライドハウス東京WEBサイトより)

今だからこそ、リアルな場が必要

新型コロナウイルスにより人々の暮らしは大きく変わった。

特にセクシュアルマイノリティとって、経済的な困難、医療アクセス、孤立など深刻な問題に直面している人もいる。

プライドハウス東京が行った調査では、LGBTQユースの7割強が家族など同居人との生活に困難を抱え、4割弱がコロナ禍で安心して相談できる人・場所がなくなってしまったということがわかった。

「LGBTQのユースにとって、孤立は喫緊の課題です」と松中さんは語る。

もともと「プライドハウス東京レガシー」は、あくまでも"期間限定"の施設として開設する予定で、その後、常設の「LGBTQセンター」へと繋いでいく構想を練っていたという。

しかし、新型コロナにより居場所を失ってしまったLGBTQが多くいる現状を見て、松中さんらは、「ここに行けば安心して自分のことを話せる、総合的な情報が集まっている場所がいまこそ必要だ」と考えた。

「プライドハウス東京」のロゴは、東京2020オリンピック・パラリンピックエンブレムを手がけた野老朝雄氏がデザインした

今年のゴールデンウィークが明けた頃から、終息の見えないコロナ禍で、どうにかコロナ対策を講じながら、リアルな場を設置できないかと再び動き出した。

プライドハウス東京は、35の団体・専門家、14の企業、19の大使館によるコンソーシアムでの形を組んでいる。こうしたさまざまな組織と丁寧にコミュニケーションを取りながら、10月11日の国際カミングアウトデーに合わせて、東京新宿に常設のLGBTQセンター「プライドハウス東京レガシー」を開設することになった。

オフラインもオンラインも、両方大事

プライドハウス東京は、関わる企業や団体、大使館などが「教育・多様性発信」「文化・歴史・アーカイブ」「ウェルネスサポート」「アスリート発信」「祝祭・スポーツイベント・ボランティア」「居場所づくり」「仕組みづくり」という7つのチームに分かれそれぞれの活動を展開しているという。

センターの中で一番目を引く「本棚」は「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」と名付けられ、「文化・歴史・アーカイブ」チームが担当している。LGBTQに関するさまざまな本や雑誌、映像、イベントチラシなどを集めて、誰でも手に取れるようにする。

個室の相談スペースも設け、性に関する相談も受け付けられるようにする。相談などを担当する「ウェルネスサポート」チームでは、「LGBTQユースのためのアドボケーター養成講座2020」を開講し、支援者の育成も進めていく予定だ。

今年4月には「東京レインボーマラソン2020」というチャリティマラソンを計画していたが、コロナで中止となった。この企画を担当していた「祝祭・スポーツイベント・ボランティア」チームは、アシックスと連携し、「オンラインレインボーマラソン」を企画。アプリに登録しマラソンに挑戦する内容へと変えて11月1〜8日の間で開催する。

センター内には、オンライン配信ができるブースも設置されている。松中さんは「リアルな場とオンラインの場、両方あることが大事」だと語る。

「教育・多様性発信」チームは、昨年から既にさまざまなオフライン/オンラインイベントを実施してきた。

例えば、VISAと共に、海外のLGBTQに関する絵本の概要の翻訳と展示を行い、今年はオンラインでの絵本読み聞かせイベントを企画している。

5月から8月にかけては「おうちでカラフルトーク!」と題したLGBTQユース向けのオンラインイベントを全8回に渡って配信してきた。

「教育・多様性発信」チームによるイベントの様子

コロナ禍でセンターを開くにあたっては、どう感染対策をしながら運営するかも考えなければならない。

プライドハウス東京レガシーは、構造として図書館に近い形になっていることから、日本図書館協会のコロナ感染拡大予防ガイドラインを参考に、来場者の体温測定、換気や飛沫感染対策のパーテーションなどを利用していくという。

変化というレガシーを

東京オリンピック・パラリンピック開催自体に関して、批判的な声も根強い。例年オリンピック・パラリンピックでは、開催後にどれだけ影響を残せたかという「レガシー」も重視されているが、新国立競技場の建設費や工事現場の自死の問題も記憶に新しい。

松中さんは「オリパラの『レガシー』は必ずしも有形物だけではない」と話し、オリンピック・パラリンピックはスポーツだけでなく「文化」の祭典とも言われている点について指摘する。

「経済効果がどうだったかなども取り上げられますが、オリンピック・パラリンピックが、開催地でどれだけ大きな意義を残せたかが重要だと思います」

オリンピック憲章では、性別や性的指向による差別の禁止を明記し、開催国にも求めている。これを受けて東京都は2018年に人権尊重条例を制定。性的指向や性自認による差別禁止を盛り込んだ。

しかし、日本にはLGBTQに関する差別を禁止し、平等に扱われるための法律がない。同性婚も認められていない。議員によるLGBTQに対する差別発言も一向になくならない。

「LGBTQに関する動きはオリンピック・パラリンピックを契機に、確実に大きくなっています」と松中さん。

「しかし、このムーブメントが、ただ動き始めた"だけ"だったのか。具体的に人の気持ちをどう動かし、どう社会を変えられるかが重要です」

松中さんは、ガンジーの「"Be the change that you wish to see in the world"(もしあなたがこんな社会を見たいと願うなら、あなた自身が変化になりなさい)」という言葉を紹介する。

「プライドハウス東京レガシーという場所が、そんな一歩を踏み出そうとする人の背中を押せるような、変化のタネを蒔いていく場になればいいなと思っています」

当初は、コロナ禍で開催を中止することとなったプライドハウス東京だが、LGBTQの人々にとっての暮らしや困難が止まる訳ではない。

「歩みを止める必要はないし、どんなピンチでもチャンスに変えられると思っています」と松中さんは語る。

プライドハウス東京レガシーは、LGBTQの当事者でもそうでなくても、誰でも入場可能だ。

東京オリンピック・パラリンピックのレガシーとして、差別をなくしLGBTも平等に生きられるための法律や同性婚の制定、そして、多様性を受容する人々の意識変革へと繋がっていってほしい。

(文・松岡宗嗣)

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