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車いすラグビー日本代表を強豪に押し上げた池崎大輔の素顔 東京パラリンピックへ の思い

2020/6/3 11:18

車いすラグビー・エースの池崎大輔(写真:松尾 アフロスポーツ)

四肢に障害のある選手たちが車いすに乗り、闘志をむき出しにしてぶつかり合う――パラリンピック競技で唯一車いすでの「タックル」が許されている車いすラグビーは、その激しさが見る者の目を奪うチームスポーツだ。日本代表は、リオ2016パラリンピックで銅メダル、2018年の世界選手権で初優勝に輝いている。東京2020パラリンピックが1年延期になり、新型コロナウィルス禍で合宿や遠征は中止になっているが、金メダル有力候補ということに変わりはない。
そんなチームの中でも世界屈指のスピードとチェアスキル(車いす操作技術)を持つポイントゲッターがいる。2018年の世界選手権でMVPを獲得し、日本代表の初優勝に貢献したエースの池崎大輔だ。2010年に国際大会デビューを果たしてから、この競技のトップシーンを走り続ける42歳のここまでの道のりと車いすラグビーにかける思いに迫る。

スポーツ好きな少年を襲った進行性の難病

北海道函館市生まれの池崎が自身の身体に異変を感じたのは6歳の時だ。その時のことは今でも覚えているという。幼稚園に向かう平坦なコンクリートの道を直進することができない。足に力が入らず、何度も転んだ。病院で診てもらうと徐々に筋力が落ちていく難病「シャルコー・マリー・トゥース病」と告げられる。だが、幼かった池崎には実感がわかなかった。小学校に進んだ後も野球をしたりサッカーをしたり、同学年の友だちと一緒に目いっぱい体を動かした。スポーツが好きだった。

症状は少しずつ進んでいた。中3の時、足首を固定する手術をしてスポーツから遠ざかり、さすがに落ち込んだという池崎。だからこそ、進学した岩見沢高等養護学校で、車いすバスケットボールに出会った時の喜びは大きかった。競技用車いすに乗れば自分の足を使わなくてもコートの中を走ることができる。池崎は車いすバスケットボールに夢中になり、パラスポーツの世界に足を踏み入れたことで「日本代表」、「パラリンピック」という大きな目標もできた。

車いすバスケットボールは下肢に障害のある選手がプレーする国内屈指の花形競技だ。両足の障害に加えて両手の握力もない池崎はクラブチームで活躍して日本選手権に出場。名前の知られる選手になったが、それでも日本代表に名を連ねることはなかった。本人は当時を振り返り「できないのは手の障害があるからと言い訳にしていた」と明かす。そんな池崎に目をつけたのは北海道の車いすラグビーチーム北海道Big Dippers(ビッグディッパーズ)の選手たちだ。同じ四肢障害という土俵でプレーできる車いすラグビーのクラブチームに誘ったのである。

「性格に合っていた」車いすラグビーとの運命的な出会い

初めてタックルを体験した時の衝撃を池崎はいつも「新しい人生のゴング」と言い表す。闘志をむき出しにして立ち向かい、コンタクトプレーで相手を削るスタイルは、何より性に合っていた。

車いすごと転倒するハードなプレーも(写真:田村翔 アフロスポーツ)

「車いすラグビーは自分の障害も適しているし、気性の荒い自分に向いているなと。一気に惹かれていきましたね」

その池崎のスピードは最初から群を抜いていた。2009年の東日本リーグ。車いすラグビーに転向して1年目の池崎を擁するビッグディッパーズは日本選手権4連覇中の強豪BLITZと対戦した。チャンピオンチームには今も日本代表の主力で活躍する島川慎一がいる。試合はBLITZが圧倒したが、この時コートサイドで見守っていた誰もが島川と堂々と渡り合う新人に衝撃を受けていた。

この年の日本選手権でビッグディッパーズを3位に押し上げ、翌年から日本代表合宿に招集された池崎は、2010年6月に国際大会デビュー。瞬発力には少しだけ自信があったが、強豪国のパワーやスピードに打ちのめされ、敗北感を味わった。この大会を境にアスリートとして覚醒した池崎は、すべてを世界基準で考え、高みを目指してトレーニングを積んだ。クラブチームなど地元のバックアップも味方につけて急成長し、同年9月には日本代表にとって悲願である世界選手権のメダル獲得に貢献した。

車いすラグビー日本代表が初めてパラリンピックに出場した2004年のアテネ大会から、結果の出ない中でひたすら走ってきた島川は、2010年に初めて世界選手権のメダルを手にし、池崎についてこう話している。
「なんでもっと早くラグビーに来てくれなかったんだって思いましたね(苦笑)。遠征で同じ部屋だったので、夜中3時まで自分の経験を語ったりして、できる限りのことを伝えました」

今も日本代表の主力で活躍する島川慎一(写真:松尾 アフロスポーツ)

当時、日本代表合宿の多くは埼玉で開催されており、海外遠征のみならず、月に一度の強化合宿に参加する旅費は手弁当だった。苦しい時代を乗り越え、たどり着いたロンドン2012パラリンピックは勝てばメダルという試合を落として悔しい思いを味わった。

「2年間、振り返ることなくひたすら密度の高い時間を過ごしました。でもそれで勝てるほど世界は甘くないということです」

壁は乗り越えなくてはいけない――池崎からよく聞く言葉だ。そしてまた世界4位の位置から世界3強入りを目指す挑戦は始まった。

悲願のメダル獲得、そして世界一へ

2013年、車いすラグビーの日本代表チームに新たな戦力が加わった。車いすバスケットボールの日本代表候補だった池透暢(いけ・ゆきのぶ)だ。日本代表に高さとロングパスという新たなオプションをもたらし、2014年からキャプテンとしてチームを率いる。そんな池も池崎の影響を受けた一人だ。

「池崎さんは同じ車いすバスケットボール出身。車いすラグビーへの転向を決めた時、バスケとラグビーの細かな違いなどを話せる相手がいたのはよかったですね」(池)

二人は「イケ・イケコンビ」と呼ばれ、強力な連携プレーで得点を生み出す日本の名物コンビとなった。

池透暢(左)と共に「イケ・イケコンビ」と呼ばれる(写真:アフロスポーツ)

一方、池崎は個のフィジカルとメンタルをさらに鍛えようと日本を飛び出した。アメリカ、カナダ、オーストラリアのリーグ戦に参戦し、体格で勝る選手たちの中で試合経験を積んだ。

迎えた2016年のリオパラリンピックは準決勝で宿敵オーストラリアに敗れるも、3位決定戦でカナダに勝利。「目指していたのは金メダルだった」と悔しさをのぞかせながらも、エースは仲間たちと抱き合い、笑顔を見せた。

リオパラリンピックではカナダに勝ち銅メダルを受賞した(写真:ロイター アフロ)

2017年から日本代表はアメリカ人のケビン・オアー氏をヘッドコーチに迎え、東京パラリンピックの金メダルというただひとつの目標を目指して再出発した。

大舞台で1位になることを本気で目指すなら、一度は頂点に上がり、1位からの景色を見ておきたい。2018年にシドニーで行われた世界選手権。決勝に勝ち上がった日本代表は、世界最強プレーヤーのライリー・バットがいるオーストラリアとの競り合いを制して世界一に。疲れの見える相手エースに対し、日本代表は選手層で勝っており、例えば池崎、池、島川をローテーションさせてコートに送り出すことで日本代表は持ち味のスピードを維持することができた。

さらにいえば、決勝は池崎の気迫が違った、とオアーヘッドコーチは話す。
「僕は彼を『戦士』だと思っている。池崎選手は勝ちたいという気持ちに純粋で、それが如実にプレーに表れてハードになる。戦士は時々鳴りを潜めるけれど、最後は勇ましい姿で戻ってきてくれたよね」

ケビン・オアーヘッドコーチ(写真:松尾 アフロスポーツ)

すべては金メダルのために

こうして東京パラリンピック前の重要な大会で活躍し、MVPを手にした池崎は、コートの中で猛々しい姿で強い日本代表を牽引する一方で、ミーティングでは輪の外側で静観していたり、集合写真では隅に収まったりすることも多い。そんな"一匹狼"の池崎だが、若手が増えてきた日本代表の中でリーダーシップを発揮する一面もある。

2016年と2018年には、日本代表合宿のないタイミングで北海道合宿を主催し、スタッフや選手ら20名を集めた。練習後はジンギスカンの鉄板を囲んでワイワイと過ごすのが池崎流だ。受け入れ側と参加者との密な連絡も買って出て、チームのコミュニケーションを円滑にするために周囲に気を配っていた。

成長著しい若手の一人である中町俊耶(しゅんや)は言う。
「池崎さんは練習の合間にキャッチボールをしてくれたり、練習後に焼肉に連れていってくれたりと僕や若い選手の面倒を見てくれる優しい先輩です。プレーについてもよくアドバイスをしてくれます」

車いすラグビーは、激しいコンタクトに耐えうるタフさが求められる一方で、仲間の障害の状態を知り尽くしてプレーする緻密な戦略も勝利のカギを握る。東京パラリンピックを控え、仲間たちと過ごす時間を増やそうと池崎は北海道から上京した。コロナ禍の現在こそ、練習は自主トレに限られるが、2019年に東京を拠点とする新チームも立ち上げ、来る決戦に向けて準備を進めている。

「日本代表にはリオの銅メダルや世界選手権の優勝で満足している選手は一人もいない。東京パラリンピックでは金メダルという形で自分たちの強さを証明したいです」

日本代表を強豪に押し上げた絶対的エース池崎大輔。勝利を追い求めてきた男の金メダルへの思いはとてつもなく強い。

(文・瀬長あすか)

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