米女子サッカーのラピノー選手が男女の賃金格差を訴え話題に......スポーツに「男女平等」はあるか

2019/7/23 11:00

2019年女子ワールドカップで4回目の優勝を果たしたアメリカ(USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

スポーツにおける男女平等という課題は、先人たちの絶え間ない努力によって変化してきた。最近では、女子ワールドカップサッカー大会2019で4回目の優勝を果たしたアメリカ代表の、ミーガン・ラピノー(Megan Rapinoe)共同主将が男女平等の賃金を訴えた迫力のあるスピーチが話題となった。
一方で、女性スポーツの新たな課題も出てきている。女性として命を授けられ、五輪2連覇をしたキャスター・セメンヤ(Caster Semenya)選手は先天的に男性ホルモン値が高いことで出場を禁止された過去を持つ。東京2020大会を1年前に控えた今、スポーツにおける男女平等を考えたい。

男女平等の賃金を訴え話題となった米女子サッカー選手、ラピノーのスピーチ

ラピノーは、米女子プロバスケリーグ(WNBA)のスタープレーヤーであるスー・バード(Sue Bird)をパートナーに持ち、自らもLGBTQのアスリート当事者としてLGBTQに対する偏見に対して戦っているアスリートでもある。優勝パレードでは、「Equal Pay」すなわち、プロアスリートとしての男女平等の賃金の受け取りの主張をして話題となった。

ミーガン・ラピノー(写真:ロイター/アフロ)

「私たちはもっと(世の中を)良くできる。もっと愛し合い、憎しみ合うのを止めましょう。(自ら話ばかりしているのでは無く)もっと人に耳を傾けましょう。これはみんなの責任だと認識しなければなりません。


ここにいる人たち、いない人たち、いたくない人たち、賛同する人たち、反対する人たち ―世界をより良い場所にするのは、私たちの責任です。この(アメリカ)チームはそれを背負い、自分たちの立場と発言力を素晴らしく理解していると思います。

そう、私たちはスポーツをする。そう、私たちはサッカーをする。そう、私たちは女子アスリート。でも、私たちはそれ以上でもあります。みなさんも、それ以上の人たちです。
みなさんは、ただのファンではない。みなさんは、ただのスポーツを支持している人ではない。みなさんは、ただの4年に一回テレビで観る人ではない。

みなさんは、この道を毎日歩いている。共に生きる人たちと毎日ふれ合っている。周りの人たちのためにできることは、何だろうか? ―家族のため、親しい人たちのためにできること。親しい10人のため。親しい20人のため。親しい100人のため。この責任が一人一人にあるのです。この数年でたくさんの論争がありました。私もその被害にあいました。協会との対立では、時にその原因でもありました。謝りたいこともあります。謝らないこともありますが。


今は結束する時です。この会話こそが、次のステップなのです。
協力をしなければなりません。みなさんが必要です。」

優勝パレードでは迫力のあるスピーチが話題となった(USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

このスピーチの背景には、テキサス工科大学スポーツマーケティング研究室助教の浅田瑛氏の解説(2019)によれば、以下のようなアメリカ代表の現状がある。


今年の3月8日の国際女性デーに、アメリカ代表女子選手28名が「連盟は女子選手を不当に扱っている。連盟は女子選手に対して男子選手と同等の賃金、遠征費、その他の労働環境(ピッチの芝など)を提供するべきだ」と主張した。この主張に対して連盟側は「男女の代表チームでは選手に求められているものが異なり、生まれる収益にも差がある」と反論した。加えて、労使協定の違いについても言及した。男子選手と女子選手は別々に連盟と労使協定を結んでおり、連盟はそれに則って給与を決定している。男子が歩合制で出場試合数などに応じた給与が支払われる一方、女子はパフォーマンスに関わらず給与が保証されている。これらの違いによって給与が決められるため額に差はあるが、それをもって「連盟が女子選手を不当に扱っている」とは言えないと連盟側は主張した。
結局は、女子ワールドカップサッカー大会2019終了後に、訴訟を起こした選手側と連盟とが示談による解決の意思を示したということで、結果が注目されている。

2019年女子ワールドカップに出場したアメリカ代表選手(写真:ロイター/アフロ)

ミーガンは、自分たちの立場と発言力を十分に理解したうえで、女性として、女子アスリートとして、アメリカという国の現状に対して問題の解決のために社会的な責任を背負い発言をしたと考えられる。
優勝パレードでは、観衆が「Equal Pay」と書かれたTシャツを着て、このムーブメントを支持している姿も印象的であった。

「Equal Pay」と書かれたサインを持つ観衆もいた(写真:ロイター/アフロ)

ミネソタ大学の女性スポーツ研究センター「タッカーセンター」のメアリー・ジョー・ケーン(Mary Jo Kane)所長は、地元テレビのインタビューにおいて次のような見解を示した。
「アメリカにおける教育修正条項第9条である『タイトルIX』が発効した1972年までのアメリカは、スポーツ界における男女不平等は甚だしかった。そこで、その当時の選手たちと比べると、47年を経た2019年現在の女性アスリートは、物事に対する姿勢や考え方(Attitude)が異なる。ラピノー選手のスピーチのように、信念を持って自己主張をしっかりと行っており、1999年にアメリカが優勝した時のミア・ハム(Mia Hamm)選手の全盛期時代の"エレガント"な様子とも明らかに対照的だ」と。

1999年女子ワールドカップ大会 優勝セレモニーでのミア・ハム

女性スポーツを劇的に変えたタイトルIX

タイトルIXはアメリカ連邦政府の援助を受けている教育機関においては性(sex)による差別は許されず、もし、差別が行われた場合は連邦政府からの補助金がカットされるという罰則付きの法律である。この法律の施行によって、教育の一環であると見なされたスポーツ界は劇的に変化した。例えば、1972年以前の高校および大学における女性のスポーツ参加率から、大学で560%、高校では990%も増加した。そして、女性アスリートへの奨学金は以前は皆無であったが、男女差は未だに存在するものの増加しており、劇的な変化を示した。さらに、全米大学競技スポーツ協会(NCAA)においては、NCAAへの加入の時点から男女のアスリートの数が平等になるような規則が設けられており、先人たちのすさまじい努力の跡が垣間見られる。


以上の事実は、アメリカの女性スポーツが自然な発展を遂げているわけでは無いという理由を示している。女性スポーツを推進する先人たちの絶え間ない努力と、その基盤の上に堂々と立ち、社会的な責任を十分に理解しながら、将来の後輩たちへバトンを繋ごうとする現在の強い信念を持つ逞しい選手たちの存在によるものであると確信する。

新たな課題も 「生物学上は男性」と出場禁止された女性アスリート

女性スポーツにおける男女平等(Gender Equality)に関して、新たな展開が起こっている。それが、陸上の800mにおいてロンドン及びリオデジャネイロ2大会のオリンピック大会で金メダルを獲得した南アフリカのキャスター・セメンヤ選手である。

リオオリンピック陸上女子800メートルで走るキャスター・セメンヤ(写真:ロイター/アフロ)

彼女は女性として命を授けられ、これまでトップアスリートとして育ってきた。しかしながら、彼女の生理的な特徴であるテストステロンが平均的な女性の値を大きく超えていることから、国際陸上競技連盟より、出場を禁止された過去を持つ。さらに、2018年4月には連盟が競技会に出場するためにはある一定のテストステロンレベルにその値を下げることを条件に大会への出場を認める決定を行った。その結果を受け、セメンヤはこれを不服としてスポーツ仲裁裁判所に訴えたが、連盟の主張が認められた。さらにその後、セメンヤがスイスの連邦裁判所に再度、連盟の決定を不服として訴えた結果、逆転して出場が許可される事態となり状況は混乱している。

2019年6月にフランスで行われた大会では禁止されている距離以外の女子2000メートルで優勝した(写真:ロイター/アフロ)

国際的な女性スポーツネットワークである国際女性スポーツワーキンググループ(IWG)は、他の女性スポーツ組織であるウーマンスポーツインターナショナル (WSI)および国際女子体育スポーツ連盟(IAPESPGW)とともに国際陸上競技連盟に対して、セメンヤ選手のように女性として生まれ育った選手に対して、テストステロン値を下げて競技会に出場するようにという命令は、生物学的な性を否定するものであり、人権侵害であるという主張を唱えている。
女性と男性の性染色体による決定(性アイデンティティ)はグラデーションのように様々であり、決してどこかの時点で性アイデンティティを結論付けられないことから、女性アスリートに対する性アイデンティティを決定するような性別判定検査は1999年に廃止されている。

東京2020を来年に控え、世界は待ったなしにスポーツにおける男女平等(Gender Equality)の観点で日本を見て、その対応に期待して日本を訪れる。国際オリンピック委員会(IOC)は昨年、さらなる男女平等なオリンピック大会を念頭に、Gender Equality Review Projectとして25の提案をしている。東京2020をきっかけに、スポーツ界での男女平等が更に実現されることを期待したい。

(文・小笠原悦子)

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