オリンピックの「オ」の字も出ない 五輪直前、都内のホテルの現状

2021/7/16 9:30

写真:アフロ

この1年間、コロナ禍により社会は大きく変容してきたが、それはホテル業界も同様だ。翻弄されてきたといえば、コロナ禍は総論としても、各論の代表格といえば"東京五輪"だろう。近年の訪日外国人旅行者激増によるホテル業界の活況はますます勢いづき、2020年7月の東京五輪で大きく開花する、はずだった。ところが、2020年の年明けからしばらくして、新型コロナウイルスの脅威が襲いかかることになったのだ。

出典:日本政府観光局(JNTO)

コロナ禍と五輪に翻弄されたホテル

過去に経験のない事態だけに、姿の見えない敵に対して感染症対策をはじめ各種対策へ手探りの状態が続いた。とはいえ、新型コロナウイルスが国内でも確認されはじめた頃は、ホテル業界が五輪へ一縷の望みを掛けていたのは事実であり、当初はまだポジティブなムードもみられた。

一転、3月に五輪の延期が発表されるわけだが、ホテル業界は五輪によるホテル不足に備えてさまざまな準備や対応をしてきただけに、まさに"梯子を外された"感にも包まれた。ビッグイベントとホテル不足はセットのようなものだが、東京五輪におけるホテル不足問題がクローズアップされたのが2019年春頃だったと記憶している。特に6月に観戦チケットの抽選結果が発表された際に表面化したのが、チケットを購入してもホテルが予約できないという問題だった。結論を言うと、大会組織委員会が大量に部屋を仮押さえしていたことが判明したが、その数は国際オリンピック委員会や競技団体などの関係者向けに、会場周辺を中心としてなんと約4万6000室とされた。

このように、一般利用者のホテル確保が困難になるほどの"五輪とホテル問題"であったが、ゆえにさまざまな態様の宿泊施設が新たに誕生してきた。特にカプセルホテルやホステルといった簡易宿泊所や民泊などは短期間で開業できる長所もあり、一般のホテルとは一線を画す形態の宿泊施設への需要が高まりをみせた。

都内のカプセルホテル(写真:ロイター アフロ)

五輪特需で通常のホテルが押さえられない人たちも多かったため、それら新たな宿泊施設への引き合いは多く、2020年7月~8月の会期中の予約状況で1泊数十万円という民泊のニュースが話題になったほどだ。そこまでとはいかなくとも通常5000円ほどのビジネスホテルが5万円などという例もみられた。

五輪に対してクールなホテル

その後の五輪延期決定により仮押さえからも開放されるわけであるが、コロナ禍はさらに根深い問題をあらわにしていく。先述したホテルの需要ひっ迫によって誕生したような民泊や簡易宿泊所は相当の割合で事業を断念、クローズする施設が際だった。一般のホテルや旅館でも廃業する施設は続出し、インバウンド&五輪大活況から一転、いまも惨憺(さんたん)たる状況が続いている。

ザッとインバウンド活況と五輪、そしてコロナ禍に翻弄され続けたホテル業界を振り返ってみた。
いま、コロナ禍前のような五輪への大きな期待はみられないのは当然としても、東京五輪にまつわる部分でホテル業界はどのような状態なのだろうか。都内を中心としたさまざまなホテルで、関係者に五輪について聞いてみると、大きなパイは期待できないということか、「ワクチン接種を契機とした国内旅行ムードの盛り上がりに呼応すべく注力している」という答えが多い。オリンピックのオの字も出ないこともあり、翻弄させられてきた五輪に対してある種クールなムードと言える

とはいえ、会場周辺ホテルでは盛り上がっているのではないかと想像するも、やはり観客数の制限は予約流入に大きく影響しているようだ。開催まで1カ月を切ったタイミングで本記事を執筆しているが、大まかな予約状況をチェックしてみた。都心の港区といった"五輪一等地"のホテルについて会期冒頭の7月24日前後を確認してみると、デラックスホテルで5万円~、アッパークラスのビジネスホテルで2万円程度、一般的なビジネスホテルで1万円程度と充分予約可能な状況だ。空室表示すら見つけられなかったあの頃の予約サイトの画面はいまや見る影もない。

関係者の滞在先としてのホテル

観客数の制限とは別に、五輪関連で白羽の矢が立つのが、大会関係者、選手団、メディア関係者の滞在先としてのホテルだろう。大会組織委員会はそうした対象ホテルを150施設程度に集約しているとされるが、ホテル側からすると「貸し切りにするのか、一部提供という場合には他のゲストとの接触についてどうするのか」といった問題や、入国直後の隔離期間の受け入れについても不安の声が出ている。「組織委員会からの詳細な情報提供も不透明な部分がある」と困惑の声も聞かれる。

画像制作:Yahoo! JAPAN

実際、海外からの大会関係者を受け入れているホテルの実情はどうなのだろう。都心の会場周辺にある某デラックスホテルへ取材に出向いた。そのホテルは人気があり、3度目の緊急事態宣言後には週末の稼働率は70パーセントほどにまで回復させている。感染症対策という点ではすでに1年以上の経験蓄積があり、ノウハウ、スタッフ対応もスムーズだ。一定のフロアを隔離期間用の客室に充てているというが、取材時の時点では特段のトラブルはないという話だった。

一方で、食事の提供に関する問題はなかなかハードルが高いようだ。隔離により客室に滞在する際に、やはり食事は唯一の楽しみというのは経験者でなくとも想像できる。ホテル側も客室内で充実した食事を提供したいという思いは強い。取材先のホテルは、フルサービスタイプのホテル、すなわち宿泊以外にも料飲施設を数多く有する。洋食はもちろんだが、和食ダイニングが充実していることも特色であり、その点で助かっているとホテル関係者は話す。というのも、海外からの外国人ゲストに和食は人気が高く、充実したメニューをスムーズにルームサービスできるからだ。そのような理由から、洋食中心だった従前のルームサービスメニューに和食を充実させたという。

ルームサービスを値上げする理由

調理されたルームサービスの料理は専用のワゴンで運ばれる。保温庫も付いており、熱い料理は熱いままに届けることも可能だ。客室の前にルームサービスワゴンを置いて、届いたことをチャイムで知らせれば、非接触で届けることができる。さすがデラックスホテルだけあり、ホテルクオリティの料理が堪能できる。

ルームサービスのイメージ(写真:アフロ)

ところで、筆者はそのホテルのルームサービスメニューを記憶していたが、取材時にチェックしてみると確かに和食メニューが拡充されていた。以前からあった握り寿司なども見られたが、メニューを見つつあれっ?と感じた。食事の値段が高いのだ。以前の価格帯も何となく覚えていたが、それにしてもやけに高いなぁと感じた。以前の2~3割は値上げされている。

具体的な価格帯を記すと、ホテル名が推測されてしまう可能性もあるので伏せるが、デラックスホテル慣れした日本人であっても恐らく手を出さないだろうという価格といえる。もちろん筆者であれば絶対オーダーしないというか、そもそも手が出ない。ホテルの担当者に確認してみると、大きな声では言えませんが、と前置きした上で「大会関係者の滞在に合わせてメニューと共に価格も変更した」と話す。そんな価格帯にもかかわらず大人気で予想以上のオーダーが入るといい、ホテルの目論見どおりとなったわけだ。

普通は手が出ない価格と前述したが、そんなホテルの方の話を聞きながら、そういえばルームサービスの代金も宿泊費と共に請求されるが、"自分の財布じゃなかったらどうなのだろう"といぶかしく思わずにはいられなかった。

五輪に振り回されてきたホテル業界。ここにきてもなお、一縷の望みに託すようなシーンへ出くわすこともあるが、"あの頃"の総体的な五輪特需の勢いはどこへやら。コロナ禍で下落した稼働をどうするのか、インバウンド回復に備えていま何をするのか...「五輪どころではない」-ホテルのクールな本音だ。

(文・瀧澤信秋)