日本代表に求める「人間性」とは 車いすバスケ男子・指揮官が2020に向けて語る

2019/8/30 9:43

2020年、メダルを目指す日本代表チームにスポットを当てた連載企画「THE TEAM」。日本はいかにして世界と戦っていくのか・・・1年後に迫った2020東京パラリンピックで、史上初のメダル獲得を目指す車いすバスケットボール男子日本代表。2013年から指揮官を務めているのが、及川晋平ヘッドコーチ(HC)だ。及川HCが作り上げようとする"JAPAN"の姿とは、いったいどんなものなのか。今週末に国際親善試合「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP2019」を控えた、及川HCと、2015年から及川HCを支えてきた京谷和幸アシスタントコーチ(AC)にインタビューした。

©Takao Ochi

指揮官が日本代表に求める「人間性」

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自らも日本代表としてパラリンピックに出場した経験を持つ及川HCと京谷AC。2人にとって、「代表」とはどんな存在なのだろうか。

「日本のトッププレーヤーたちが、さらに世界のトップを目指す場が代表。そんな素晴らしい機会は、誰にでも与えられるものではありません。だからこそ、その恵まれた環境に感謝しなければならない」と及川HC。京谷ACも「バスケでもふだんの生活でも、当たり前のことが当たり前にできるのが代表。自覚と誇りと責任が必要」と語る。

そんな日の丸を背負って戦う選ばれし精鋭たちに、指揮官が求めているもの、チーム作りの指針としているものとは何なのか。及川HCが示したのは「人間性」だ。

「最後の最後、最も大事な瞬間に、ボールを託してもらえる選手になれるかどうかというのはすごく大事なこと。『あいつになら任せられる』という無意識に働く咄嗟の判断は、結局、日頃の行いによって積み重ねられる、信頼や尊敬の気持ちから生まれるもの。厳しい試合になればなるほど、"個"ではなく"チーム力"がものをいう。だからこそ、信頼される選手が一人でも多くいるチームは強い。結局、勝敗に強くこだわるからこそ、人間性が求められるんです」

そして、人間性が影響することとして、日常生活の重要性も説く。

「世界の強豪国との厳しい試合の中で勝つためには、まずは良いコンディションでコートに立つことが大前提。つまり、コートに立った時には勝負が始まっているわけです。じゃあ、何が大事かというと、コートに立つ前に何をしてきたかということですよね。結局は、普段の生活がものをいう。でも、人間ってどうしても甘えが出てしまいます。それをぐっとこらえて、自分に厳しさを追求できるか、継続できるかどうか」

指揮官のこの言葉に、「日常生活でルーズな選手は、コート上でもそのルーズさが、いざという時に出てしまうもの」と京谷ACも賛同する。技術に限らず、人間的にもトップである選手たちの集団こそが日本代表。「勝敗へのこだわり」と「人間性を追求すること」は、強く結びついている。

「可能性を引き出すこと」が最大の務め。バックボーンにある恩師からの指導

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日本代表の指揮官に就任して7年目となる及川HC。指導者としての"奥義"を授けてくれた恩師の一人が、車いすバスケ界では世界随一の名将として知られるマイク・フログリー氏(現・カナダナショナルアカデミーコーチ)だ。及川HCはアメリカの大学に留学中、フログリー氏が当時指導していたイリノイ大学の練習に参加。そこで彼から学んだことが、今につながっている。

「マイクは、一人一人の選手のことを、本当に細かい部分まで見ている指導者でした。うまくなるために、決してあきらめることなく、その選手に合ったフォームを考案したり、的確なアドバイスをする。よく言っていたのは『どんな選手にも必ず可能性がある』ということ。やり方次第で、選手は伸びると。だから選手一人一人に寄り添って、一緒に成長を追っていくこと。それが私の指導者としてのベースになっています」

実際、2013年に及川HCが指揮官に就任して以降、多くの選手たちが口にしたのは「可能性」という言葉だ。

あるベテラン選手はこう語っていた。
「及川HCほど車いすバスケを知り尽くしている人はいないと思います。彼の指導で『自分はここまで』と思っていた壁が取り外されたことがたくさんありました。『自分の可能性はまだまだある』と思えて、今、すごくバスケが楽しいんです」

そんな指揮官を最も近くで見ているのが京谷ACだ。同じ1971年生まれの元チームメイト。そんな2人の今の関係について訊いた。

「お互いにあまり気を使わなくていい存在です。僕も遠慮なく思ったことを言う。それを『あ、いいね。やってみようか』と受け入れたり、任せてくれるところは任せてくれる。でも、最終的な判断はHCである晋平の仕事。そのために本当に周りをよく見ているし、バスケのこともよく勉強している。選手ともよくコミュニケーションをとるHCです」

及川HCもまた、京谷ACの存在は欠かせないと語る。

「ACを誰に、ということを考えた時に、日本代表を強くするために一緒に考えて、生み出していける人がいいと。それができるのが京谷だと思ったんです。彼にしかないものを、車いすバスケの代表に持ち込みたいと思いました。最終判断はHCである私の仕事ですが、やっぱり一人ではどうしても視野が狭くなることもある。そんな時に、サポートしてくれるのが京谷なんです」

遠征では、同部屋で過ごす2人。バスケのことで一直線になるタイプの及川HCの横で、几帳面な京谷ACが2人分の洗濯物をたたむこともあるという。「京谷は遠慮するタイプではないので何でも言える」と及川HCが言えば、「朝起きてすぐに晋平がバスケの話をしてくることもよくあって、正直、面食らうこともあるんです(笑)」と京谷AC。そんな息のあった2人の"共同作業"は2015年にスタートし、そしていよいよ大詰めを迎えようとしている。

日本独自の力で世界の強豪国に挑む

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では、実際に日本は来年の東京パラリンピックでどのようにして勝機を見出そうとしているのか。及川HCはこう語る。

「日本がやっていること、やろうとしていることは、現在トップに君臨するアメリカやイギリスにも通用する部分はたくさんあります。だから、進んでいる道は決して間違っていないし、チームが成長していることは確信している。ただ、まだまだ力が足りていないことも事実。これまでの"ベリー・ハードワーク"を上回るトレーニングを積んでいくことが必要です。世界一の"トランジション"で40分間勝負できる力、そしてフィニッシュを決め切る力を身につけていかなければなりません」

攻守の切り替えを早くし、いかに相手をゴールから遠ざけ、そしていかに自分たちがいち早くゴールに近付くことができるか。この"トランジションバスケ"の遂行がカギを握る。

しかし、それで完成ではない。さらに、もう一つ、大事な要素がある。

「同じく並んだだけでは、アメリカのようないくらタフな状況に追い込んでも高い身体能力でシュートを決める"個の力"には勝てないでしょう。ならば、何が大事かいうと、"チームの和"です。これは、日本人特有の勤勉さや誠実さからくるもの。つまり、日本にしか作れないものだと思っています。つまり、人間性からくる信頼関係こそが、日本にしかない強みになるはずです」

例えば、ディフェンスでは相手のシュートチャンスとなる"間"や"スペース"を封じるために、スピーディな動きの中で素早くマークする相手をスイッチしたり、カバーリングに入る必要がある。オフェンスでは、人とボールが常に動きながらシュートチャンスを生み出すことが求められる。

つまり、日本がやろうとしているバスケは、コート上の5人全員の動きと強い気持ち、そして信頼感が揃わなければ成り立たない。

そして、そこに到達するために、日本が今見据えているのが、東京パラリンピック前最後の公式戦となる「アジア・オセアニアチャンピオンシップス」での優勝だ。そして、同大会で日本のライバルとなる3カ国が集結する国際強化試合「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP 2019」は、その大事な前哨戦となる。

"個の力"を凌駕する"チームの和"――1年後、車いすバスケ男子日本代表が目指すものは、その先にある。

©Hisako Saito

 

取材・撮影:越智 貴雄  取材・撮影・文:斎藤 寿子

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