コロナ禍での自国開催。誰も経験のない領域へ、隗より始めよ!

2021/4/8 17:20

昨年3月に東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まって1年。新型コロナウイルス感染症拡大に伴いすべての活動が自粛を余儀なくされるなかでスポーツの世界最高峰の祭典も開催の危機に晒されている。3月6〜7日、1年2ヶ月ぶりのWPS(世界パラ水泳)公認大会・日本パラ水泳選手権が観客のいない静岡県富士水泳場で開催された。

男子100mバタフライ(S11)世界ランク1、2位の木村敬一(東京ガス) 左と富田宇宙(日体大大学院) 右 のスタート 写真・秋冨哲生

感染症対策により関係者だけでなく参加選手も制限された。通常より高い参加標準記録を適用した予選(=通信記録会)を突破した315人のパラスイマー(身体・知的・聴覚)が日本一を競い合った。1本勝負のタイムレース形式で行われ、17人により2つのアジア新記録含む23の日本新記録がもたらされた。

知的障害クラスが強さ発揮。アジア新1、日本新3樹立。

コロナ禍でも強さを見せたのは知的障害で、東海林大(三菱商事)が男子100mバタフライ(S14)でアジア新記録を樹立。他、3つの日本記録が3人により更新された。

男子100mバタフライS14でアジア新記録(=55.68)を樹立した東海林大 写真・秋冨哲生

ーーアジア記録を振り返って、東海林は、「昨日の200m個人メドレーがすごくダメだったが、今日のバタフライはスタートから行けた。体の浮き沈みやタイムに悩んでいたが、(朝の)練習の時『これならいける』と感じた。タイミングを心がけて泳いで3年ぶりに新記録が出せてスッキリした。(専門の)200メートル個人メドレーのスキルアップのつもりで泳いだ」と話した。

インタビュールームでの東海林大(三菱商事) 写真・秋冨哲生

ーーまた11月に宮城で開催された秋季記録会・男子100m平泳ぎ(S14)で世界記録(=自己ベスト)を更新した山口尚秀(四国ガス)は、今回、専門外の200m個人メドレーに挑戦、この種目で世界記録を持つ東海林に迫る2位と健闘を披露した。

専門外の男子200m個人メドレー、背泳ぎのパートを泳ぐ山口尚秀(四国ガス) 写真・秋冨哲生

「今大会での収穫は、専門外の種目においても、自身が(記録を)持っている平泳ぎの情熱を持って取り組むようにした。専門外の種目でもしっかり伸ばしていった方が、ほかの競技にも専念していける自分になれるのではないかと思う」 東海林と山口はすでに東京パラリンピック日本代表に内定している。

日本代表を率いる、谷口裕美子コーチ(日本知的障害者水泳連盟専務理事)は、「東海林は気持ちの切り替えができている。山口は競技歴が浅いので、泳げばベストタイムが出るところもあるが、水泳に前向きに真摯に取り組んでいる。彼らはやはり強いなと思う」とコメントした。

女子は、知的障害では"世界で戦える女子"が長年課題だったが、ここにきて大きな希望が生じてきた。井上舞美(イトマン大津)が100mバタフライと200m個人メドレー(SM14)両種目で日本記録を更新。

女子200m個人メドレーSM14と100mバタフライS14で日本新記録をマークした井上舞美(イトマン大津) 写真・秋冨哲生
女子100m平泳ぎSB13が終わったあと、芹澤美希香と喜ぶ 芹澤美希香(宮前ドルフィン)と辻内彩野(S13・三菱商事 写真・秋冨哲生

19年の世界選手権で日本代表となり期待される芹澤美希香(宮前ドルフィン)が100m平泳ぎで日本記録を更新した。東京パラリンピックでは知的障害のリレーもあるため井上、芹澤を含めたリレーチームの結成を目指し女子の強化に取り組んでいる。

口裕美子コーチ(日本知的障害者水泳連盟専務理事) 写真・秋冨哲生

「井上は一時体重も増えキレがなくなっていたが、自粛期間にじっくり取り組むことができ、今は上向きになっている。芹澤は選手として脂がのってきていて、泳ぐたびに日本記録を出す」と谷口氏は感想を口にし、女子リレーチームの可能性と地元クラブと連盟の連携で選手を育てていく方向性を示していた。

次ページで、世界で競う視覚障害(全盲)クラス

視覚障害S11(全盲)クラス注目の木村・富田、100mバタフライを終えて

全盲のクラスはブラックゴーグルで光を遮断、コースロープをガイドに感じながら泳ぐ。パラリンピック3大会連続出場し2019年パラ水泳世界選手権・男子100mバタフライで優勝し東京パラリンピックに内定した木村敬一(東京ガス)と、2017年のクラス分けで彗星のごとく現れ木村のライバルとなった富田宇宙(日体大大学院)、世界ランク1、2位の勝負に注目が集まっている。大会2日目(3月7日)2人は男子100mバタフライに出場した。

男子100mバタフライ(S1 1)スタート前の木村敬一(東京ガス)とタッピングの寺西真人コーチ(左) 写真・秋冨哲生

結果は木村がベストタイムより1秒ほど遅いゴールで優勝。「前半はすごく良かったが、ターンの後左に寄ったのが芳しくなかった。そこで(コースロープに)引っかかってしまった。スタートの瞬発力には自信がある、常に後半をどう乗り切るか。フィジカル、技術面、コースロープに触れた時の修正など体の裁き方への不足があった」と課題を口にするとともに、パラリンピックまでの試合数が残り1回(5月・横浜)しかない可能性があり「試合を踏んでいくことが何より重要だ」と木村は考えている。

男子100mバタフライ(S11)を泳ぐ木村敬一(東京ガス) 写真・秋冨哲生

富田は、クラス分け後の17年メキシコシティでの世界選手権へ派遣されたが現地での大地震により日本代表の出場は見送られ翌18年ジャカルタでのアジアパラで国際デビュー、19年ロンドン世界選手権を戦う中で木村を追う有力なライバルとして世界に実力を証明した。

この日の一番として注目された100mバタフライは、前半木村と並ぶ速いペースで泳いだが、ターンのタイミングが合わず2度壁を蹴ることになった段階で勝負は終わっていたという。

男子100mバタフライ(S11)を泳ぐ富田宇宙(日体大大学院) 写真・秋冨哲生

「ターンのところで手が届かず、2回ターンモーションをする形になってしまった。これからどう修正していくか?」富田は泳法や状況により複数のタッピングを駆使している。見えづらい状態で泳いだ経験を経て(全盲での)ブラックゴーグルとタッピングの世界に挑むなかでの壁をどう克服するか課題を抱えて大会を終えた。

50m自由形S11(全盲)で金メダルを目指す、石浦智美

北京・ロンドン・リオとあと一歩で出場を逃してきたベテラン、石浦智美(伊藤忠商事丸紅鉄鋼)は女子50m自由形(S11)で世界ランク4位(19年)。今大会31秒03で派遣標準記録を突破した。

「派遣はこれまでも突破しているので気にしていない。リオ後、アスリートとして転職し人生をかけてやっている。東京で金メダルを目標にしている点で(50m自由形で)30秒台をコンスタントに出せる必要がある。(コロナで)限られたレースの回数しかない、5月の選考会では予選・決勝で(ともに30秒台)を出したい」

女子50m自由形(S11)を泳ぐ石浦智美(伊藤忠商事丸紅鉄鋼) 写真・秋冨哲生

「50mは緊張すると泳ぎが力んでしまいタイムにズレが生じてしまう種目なので、今回は無観客で自分に集中して泳ぐことができたが、感染対策が取られるようになって、観客が増えていく、本番になればより多くのお客さんが入るかもしれないのでメンタルの強化もしたい。[文字列の折り返しの区切り]体調面は疲労の蓄積を持ち越さない練習プランを立ててたことが今日につながった。病気の流行もあるが、ストレスで眼圧が上がったりするのでメンタル面をうまくコントロールして(5月の)選考会、(9月の)本番と調子のよい状態を作っていきたい」

石浦智美(伊藤忠商事丸紅鉄鋼) 写真・秋冨哲生

昨年の大会延期から怪我・故障、不注意による再発があった。目薬の影響で疲労感が取りづらいところがあり、陸上トレーニングのプログラムをいかにコンディショニング良い状態で筋力アップできるかが重要だった。効率良いプログラムを工夫したことが身になったという。

次ページで主力選手をピックアップ

コロナ禍に咲いた花。ニュー・エース誕生。山田美幸

女子50m背泳ぎ(S2)と50m自由形(S2)で日本新記録を樹立、100m自由形(S2)も好記録で泳いだ14歳の山田美幸。毎年各地で開催される全国障害者国体で同じクラスのシドニーパラリンピック金メダリスト加藤作子に出会い同じ重度障害の先輩の姿勢に学びながら育った。昨年のクラス分けでS3からより障害が重いS2クラスへ変更。背泳ぎで大きなチャンスを得た。

女子100m背泳ぎを泳ぐ、山田美幸(WS新潟) 写真・秋冨哲生
女子50m自由形(S2)をスタートする山田美幸(WS新潟) 写真・秋冨哲生

「久しぶりに自由形をとても楽しく泳げた。記録が早かったことも嬉しいが、気持ちよく泳げたことが一番嬉しい。水泳が好きで、特に潜るのが好き」と自由形の競技のあと話していた。

変わらない目標を見据える、鈴木孝幸

男子100mと50m自由形(S4)、50m平泳ぎ(SB3)に出場した鈴木孝幸は出場3レースで派遣標準記録を突破した。

男子50m平泳ぎ(SB3)をスタートする鈴木孝幸(ゴールドウィン) 写真・秋冨哲生

「タイムがすごくよいわけではないが派遣標準が出てよかった。久しぶりにレースの感じを思い出そうと臨んだ。順調な練習ができ好タイムを想定していた。持久系のトレーニングを徹底的にしていたので、スプリント系のトレーニングをもう少しやっておけば、この大会に向けて良かったかなと思う。特別調整していたわけではないので仕方がない。[文字列の折り返しの区切り]レース前の気持ちやウォームアップのチェックができた。アナウンスされてレースするというのを体験できた。2ヶ月後の選考会(5月・横浜)は今回より良いタイムで泳げたらと思う」

鈴木孝幸(ゴールドウィン) 写真・秋冨哲生

「5月に向けてはあまり調整せずいくのも考えられるし、一度合わせるというのも考えられるのでイギリスのコーチと相談して進めたい」[文字列の折り返しの区切り]鈴木はアテネから4大会パラリンピック連続出場で金を含む5個のメダルを獲得した。13年よりイギリス(ニューカッスル)に住み練習している。18年に自由形に有利なクラスへの変更があった。19年の世界選手権で出場全5種目ずべてでメダル、うち銀メダル4。「東京ではこれらを金に変える」と、世界選手権からの目標へ向かう。コロナ禍の影響をうける5度目のパラリンピックをどう戦うのか。

2つの日本新を樹立した辻内彩野

女子100m自由形(S13)と50m自由形(S13)の両方で日本新を樹立、50mでは東京への派遣標準にも届いた辻内彩野(三菱商事)。

2日目(3月7日)、50m自由形の後の辻内彩野(三菱商事) 写真・秋冨哲生

女子50m自由形では2年ぶりの日本新(=27秒83)と喜んだが、昨年11月に東京都マスターズ(健常者の大会で非公認)で自己ベスト27秒75を出していたという。「そこは出さなくてはならないタイムだと思う。(パラリンピックの)世界記録は26秒台、もっといろんなところを詰めて、狙えるようにしていきたい」と、決意を新たにした。

1日目(3月6日)女子100m自由形(S13)を1分00秒25で泳ぎ日本新を更新した、辻内彩野 写真・秋冨哲生

「水に入れない時期は、水から思いっきり離れた。水泳って独特な感覚とかを重要視する選手も多いが、ゼロに戻した感じで 、練習を再開した時に新しい泳ぎを、という考え方にシフトチェンジすることができた。水から離れ日頃できないトレーニングに力を入れた。その効果が出たのだろう」と辻内は話していた。

50m自由形(S9)常に高いところで挑み続ける、山田拓朗

ハイレベルの選手がひしめく激戦区・男子50m自由形(S9)で常に高いところで闘いつづける山田拓朗(NTTドコモ)は、今回、首の怪我により思ったレースができなかった。

「首の痛みがあり、ゴールタッチもかなり流れてしまったので、あまりいいレースではなかったが(コロナ禍で)試合の機会が少ないなかでの1本、全力で、レース形式で泳げたことはよかった」

山田拓朗(NTTドコモ) 写真・秋冨哲生

「昨日はレース後にかなり首の痛みがあったが、今朝は思ったよりは悪化していなかった。メインの種目なので泳ぎたいという思いがあり、(タイムレースで)1本なので我慢して泳いだ。記録はよくなく、タッチも流れている時点で選考会では致命的なミスになる。レースの内容としてはよくなかったが、経験をしっかりとつなげたい」

初心に返って1からやり直した、中村智太郎

男子100m平泳ぎ(SB6)1分24秒45で日本新記録だが、クラス分けで有利となった後も自己ベストにこだわって泳ぐ。

1日目(3月6日)男子100m平泳ぎで勝負する中村智太郎のスタート前 写真・秋冨哲生

「クラスの新記録より自己ベスト(1分21秒79)をめざして試合・練習を重ねている。コロナ期間中は健常者の大会に出場し1分22秒57で派遣標準タイムも切れた。レース感覚を絶やさないでいられた。1からやり直した。5月の選考会では派遣標準(=1分22秒91)を切っていきたい。東京では1分20秒台を切り表彰台に上がることが一番の目標」と話す。

「がんばれ成田!」が声援になる。無観客でも開催に感謝して

今大会で、女子50m背泳ぎ(S5)と50m自由形(S5)に出場した成田真由美(横浜サクラ)は泳ぎの感覚と予想タイムのズレを感じていた。

2日目(3月7日)女子50m自由形を泳ぐ成田真由美 写真・秋冨哲生

「昨日も今日も種目も泳ぎとタイムが会っていない。久しぶりのレースで何かくるっているかもしれない。ただ明らかに前半は飛ばしたほうがいいという課題が見えた。5月の選考会が最後なので今日があってよかった。今日が5月でなくてよかった。だからこそ、開催に感謝している」

日本代表監督・上垣匠氏は、「コロナ禍での自国開催は、誰しも未経験の状況。アスリートとしてこういった経験は誰もしたことがなく、自国開催で日本選手はより大きなプレッシャーと不安を背負いながら向かい合っている。結果より現時点でのベストをつくすことに注力することを、選手たちに伝えている」と話していた。

次ページで高い壁に挑戦する若手選手たち

環境ととのえ、リスタートした若手たち

19年世界選手権の選考会から東京パラリンピックでのメダルを意識した「派遣標準記録」が設定されている。18年アジアパラ日本代表となり東京を目指した46名の中で(19年)世界選手権へ派遣されたのは14人。ほとんどの若手選手が世界選手権へは行けなかった。厳しいパラリンピックの目標だけでなく、クラス分けやルール変更など世界の成長や変化も著しい中で、一ノ瀬メイなど海外へ練習拠点を移した選手がいる一方で、競技からの引退を決める選手もいた。

しかし、さらに、世界を揺るがしたのは新型コロナウイルスによるパンデミックで、東京開催自体が延期となった。誰にとっても経験のない状況をむかえるこの間、若い選手のなかには自分を見つめるタイミングを得て環境を整え再スタートしようとする選手がいる。

西田 杏

女子50mバタフライ(S7)と50m自由形(S7)で日本記録を樹立した西田杏(三菱商事)。

1日目(3月6日)女子50mバタフライ(S7)を泳ぐ西田杏(三菱商事) 写真・秋冨哲生

2013年アジアユースパラゲームズ(クアラルンプール)で初日本代表、2014年アジアパラ(仁川)など国際舞台を経験しつつこの10年で東京パラリンピックを目指してきた一人。

日向 楓

男子50mバタフライ(S5)で日本新記録を樹立、派遣標準まであと1秒となった日向楓(宮前ドルフィン)。同じ小学校出身のパラリンピアン多川知希(陸上)が凱旋で小学校を訪れ知り合ったことが競技活動のモチベーションとなっている。

日向楓(宮前ドルフィン) 写真・秋冨哲生

「電光掲示板をみて清々しい、いい気持ちになりました。予想をはるかにこえたタイムで嬉しかった。つぎは派遣標準(=35秒14)を切れるようコーチたちと相談したい」

荻原虎太郎

荻原虎太郎(セントラルスポーツ)は日本記録を複数の種目で持ち、11月の記録会(宮城)と今大会でも更新している。メイン種目を男子100mバタフライ(S8)ときめ、派遣標準記録を突破することを目標に地元・千葉でコーチとともに練習に励んでいる。4月から順天堂大学に進学しスポーツを専門に学びながら競技に専念する。「東京で決勝に残ることが目標」と話していた。

男子100mバタフライを泳ぐ荻原虎太郎(セントラルスポーツ) 写真・秋冨哲生

小池さくら

女子400mと100mの自由形(S7)に出場した小池さくら(大東文化大)は、11月の記録会を経て21年の強化指定選手となってから今大会までは、東京を目指す選手たちとともにNTCでのトレーニングを中心に行ってきた。

「(メインの400mは)5分35秒が目標だったが44秒で遠くなった。練習ではタイム、プールの水の感じもよかったので『今回はいけるぞ』と思ったが、飛び込んだ瞬間不安がよぎったのと、緊張で力んでしまった。メンタルが強いほうではない。レースは強気でいく方がいいと思うが自分はそれが苦手で、練習で不安がなくても、レースになると緊張し不安な気持ちが出てしまう」

女子400m自由形を泳ぐ小池さくら(大東文化大) 写真・秋冨哲生

「今後の課題は、泳ぎやスピード感にはあまり不安はないが、気持ち的な問題でもう少し自分に自信を持って、全体的に強い気持ちでレースに臨みたい。次の大会ではそうしたい。今回のタイムを受けて、5月に向けて体作りや泳ぎ込みをしていきたい」

南井瑛翔

男子100mバタフライ(S10)1分1秒09 でアジア記録のタイムを出した南井は4月から近畿大学に進学する。アジア記録と報じられたが、国際クラス分けを受けていないため公認されない。

南井瑛翔(比叡山高校)は男子100mバタフライ(S10)1分1秒09 でアジア記録のタイムを出したが国際クラス分けを受けていないためアジア記録はマークされない 写真・秋冨哲生

「自己ベストでアジア記録は嬉しいが、あと0.1秒でMQSを切れなかったのは悔しい。スタート、ターンの細かい練習をしていたのが今回の結果につながった。100m自由形とバタフライをメインにしていく。自由形はスタートからの浮き上がりを完璧にしたい。バタフライはドルフィンからの描き始めとターン後のドルフィンを強化したい。5月にMQSを狙い、国際ライセンスをとってパリをめざす」
パラスイマーに約束されたつぎの舞台は、5月21日から横浜でのジャパンパラ水泳競技大会である。国内最高峰の競技大会で、東京パラリンピック日本代表となる選手27名が選考されることになる。

次ページでパラ水泳の魅力伝える選手発信

1年以上の自粛生活。選手たちがパラリンピックの魅力発信

「空っぽのガゾリンの車をふかしているような感覚」と、富田宇宙は日本選手権の1日目(400m自由形、100m自由形)のレースのあと口にしていた。コロナ禍の自粛生活が1年以上続き練習以外の部分で心の枯渇を覚えていた。「毎日の生活が(目が)見えなくて困る中で、自宅とNTC(ナショナルトレーニングセンター)を往復するだけなのは虚しい。大会にきて、みんなが頑張っている様子にインスパイアされる」と。

1年半ぶりの日本パラ水泳選手権大会は、無観客で行われた。

2019年9月、ロンドンでの世界選手権で。日本代表チームのベンチ 写真・安藤理智

ーーパラリンピック本番も海外の観光客をどうするのか議論がありますが、どう思いますか?という記者の質問に、木村敬一は次のように答えていた。

「やっぱりたくさんの人に見てもらえるのがパラリンピックだし、なおかつ自分の国でやることの一番の、僕自身にとっても大きな意味だったと思う。でも、なんだろう『人間として何を一番大事にしないといけないか』っていう、今のおかれた状況の中で、何をすべきか突き詰めていった時に、僕らは最善の選択をしなくちゃいけない。もしそれが無観客に決定されたとしたら、それがその時にやれる最善だと思うんです。誰もが最善だと思った状態で、僕らも最善を尽くすことだと思います」

東日本大震災からまさに10年を迎え、政府や自治体に対して被災地の復興やコロナ対策の優先を求める声がある。一方で、オリパラ中止や再延期を求める声がある。それは、選手たちにも届く。

男子100mバタフライ(S9)で東京パラを目指す久保大樹(KBSクボタ)は、練習の日々を「Ku Voice(クボイス)」というトーク番組でコーチとともに伝えている(ラジオトークというアプリで誰でも聞ける)。東京を目指す自分を記録しているが、時に、木村敬一や富田宇宙、鈴木孝幸、山田拓朗らを招待してパラスイマー、そしてパラスイムの魅力を伝えている。

久保大樹(KBSクボタ) 写真・秋冨哲生

久保は今大会で目指す結果が得られなかったが「ポジティブに考えると今日はいい失敗をした。もう一度初心に戻ってトップを狙う準備をあと2ヶ月間でしたい」と話していた。実際、大会後は気持ちが沈んでしまったのか発信が止まっていたが少しずつ復旧しているようだ。

また、最近、木村、富田、鈴木らの選手も企業や市民が企画するオンライントークショーや、音声によるSNSアプリ「クラブハウス」などに出演し、一般の人にパラリンピックの魅力について伝えたり、パラリンピアンの意見を伝えるなどコロナ禍+オンラインによるこれまで以上の交流を持とうとしている。

もともと、パラリンピックは障害のある人がスポーツの最高峰に挑み、発信することで、一般の障害のある人が自由に行動したり、障害の有無によらず生活を楽しめる社会を目指している。コロナ禍による延期期間のこのような交流はパラリンピックファンを増やす新たなチャンスかもしれない。

大会や日常生活において、感染症に苦しむ人々を思うこと、感染拡大を減らす努力をすることが何より大事だ。同時に、感染対策を正しく行い、スポーツだけでなく、アートやその他のさまざまな文化、社会・地域に横たわる課題も、解決や、より良い方向へとすすむ必要がある。

この期間に「多様性の社会」「障害の社会モデル」を地域の一般の人、障害のある人ない人に伝え、多くの人が社会を見直すためのきっかけをもつための交流ができる。パラアスリートはそのシンボルとして大きな役割が果たせるし、ともにパラリンピックムーブメントを推進していけたら非常に効果的であり、市民にとっても大変嬉しい機会となるだろう。

(取材・記事 佐々木延江 編集協力 望月芳子、石野恵子 写真・取材協力 秋冨哲生)

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