飛び込み・玉井陸斗 空中技を極める中学生のスーパーボディー

2021/6/11 10:00

飛び込み界にすい星のように現れたスーパー中学生、玉井陸斗選手(2006年生まれ)。2019年の日本選手権で中学1年生にして史上最年少優勝を果たし、オリンピックの表彰台も期待される注目選手です。玉井選手の特徴は、高速回転によって遠心力がかかっても体の軸がぶれず入水できる美しい空中姿勢。身長147cm、体重41kg(2019年12月時点)の小さな体のどこに、それを可能にする力が隠されているのでしょうか。玉井選手が練習拠点としているスイミングスクールを訪ねました。

スーパー中学生を育てた名コーチの「宙づり練習」

玉井陸斗選手

玉井陸斗選手が小学1年から通っているスイミングスクールは、兵庫県宝塚市にあります。25mプールの脇にある小さな飛び込み用のプールの前で出迎えてくれたのは、玉井選手を指導する馬淵崇英(まぶち・すうえい)コーチ。30年前、飛び込み王国の中国から来日して以来、厳しい熱血指導で何人ものオリンピアンを育て上げてきた名コーチです。

馬淵崇英コーチ

小さなプールには高さ3mの飛び込み板があるだけで、10mの飛び込み台は見当たりません。馬淵コーチにどういうことなのか聞いてみると意外な答えが返ってきました。「この狭いプールには高さ10mもある飛び込み台は設置できません。でも大丈夫、ちゃんと練習はできます」と。馬淵コーチが案内してくれたのはプールサイド、そこにお腹にロープを縛り付けた玉井選手の姿ありました。

宙ずり練習を繰り返す玉井陸斗選手(右)

馬淵崇英コーチ
これは、空中姿勢を訓練するために私が作った「スパッティング」という道具です。選手をロープで縛って宙づりにするんですが、これによって踏み切りから入水までの空中演技の感覚をつかむことができるんです。まずは陸上の練習でしっかりと空中の感覚をつかんでフォームを完成させてから、実際にプールでできるかを確認することで、効率的に演技の質を高めることができるんです。

玉井選手の練習は一日平均4時間半、休日には8時間にも及びます。この日は、「えび型」の回転から体を開いて入水姿勢に入るときの練習。「アゴをもっと引く!肘をのばす!・・・」、馬淵コーチの甲高い声に小さくうなずく玉井選手、「スパッティング」を使った「宙づり」練習を動画でご覧ください。

馬淵崇英コーチ
演技で10点満点に迫るには、回転ができるだけではだめで、姿勢の美しさが大事です。とくに足。足が開いて離れると減点要素になります。国際大会では、映像をスロー再生して採点が行われるため、審判が細部までチェックするんですが、足先がきれいに揃っている選手は加点要素になります。そこで、「スパッティング」でフォームを修正して、ほんのちょっとのズレもゼロにすることを目指しているわけです。

「美しい空中姿勢」を生み出す"あり得ない腹筋"

玉井選手の演技の特徴は何と言っても「空中姿勢の美しさ」。馬淵コーチ手作りの「スパッティング」で空中の感覚をつかんだ後は、スイミングスクールの3mの飛び板から入水の練習を繰り返して、体に覚え込ませます。そして実践的な練習をする段階になると、10mの飛び込み台がある県外の施設へ合宿に出かけるのです。どんなに高速で回転しても、回転をほどいたときに足先をぴたりと揃う玉井選手の美しいフォームを動画で見てみましょう。足を伸ばしたときの「つま先」に注目です。

玉井選手はどうして、両足の指の先がそろった「美しい姿勢」を空中でとることができるのでしょうか。馬淵コーチは、その秘密は、玉井選手の大人顔負けの"スーパーボディー"にあると言います。

馬淵崇英コーチ
何も支点のない空中で、足をきれいに真っ直ぐにそろえる姿勢を保つことは、体幹がよほど強くないとできません。回転すると遠心力がかかるので、普通は空中で体が振られてしまうのですが、陸斗はまだ13歳にもかかわらず、体がブレないんです。それは、体幹が考えられないほどしまっていることと、その体幹を体の真ん中で固定するための並外れた強い腹筋の力があるからです。陸斗の腹筋の付き方は異常ですよ、あり得ない。普通はあの年齢であれだけの腹筋はつかないですからね。

馬淵コーチが、あり得ないと評する玉井選手の腹筋をじっくりと見せてもらいました。これぞまさに"シックスパック"、まるで古代のギリシャ彫刻のようです。6つに割れて盛り上がった筋肉が体の真ん中に連なっています。あどけなさが残る中学生の笑顔からは想像もできないバキバキの腹筋、これこそが「飛び込みの天才」の証なのです。

玉井陸斗選手
小学生のころからスイミングスクールの壁に設置された棒にぶら下がって、足を頭の上まで振り上げるトレーニングを繰り返してきました。それでだんだんと腹筋がついて、体が引き締まってきたのかなって思います。それでも、入水がズレてしまって安定しない時もあります。うまくいかないときは、宙返りの感覚が体に染みつくまで、陸上の「スパッティング」練習をやるしかありません。練習した通りにしたら、入水がきれいに決まることが多いんです。

世界に挑む高難度の大技「109C」

玉井陸斗選手の「109C」

玉井選手が出場する男子10m高飛び込みは、全て違う演技を6回行い、その合計得点を競います。アプローチや踏み切りの姿勢、空中演技、入水などを7人の審査員がそれぞれ10点満点で採点、上位2つと下位2つの点数を除いた残り3つの採点を合計し、そこに技の難易度を掛けた数値が得点となります。特に、水しぶきをあげない入水は「ノースプラッシュ」と呼ばれて高い点数が付けられるため、勝敗を分けることが多い見逃せないポイントです。

玉井選手が東京オリンピックに向けて挑んでいる決め技は、「難易度3.7」の「109C」(前宙返り4回転半抱え型)。助走しながら高く飛び上がり、膝を抱えて4回転半する華麗な大技ですが、回転スピードが速いため、ノースプラッシュの入水が極めて難しい高難度の技です。馬淵コーチは、東京オリンピックでメダルを獲得するためには、この技の完成度を高めることが不可欠だと考えています。玉井選手の「109C」をご覧ください。

馬淵崇英コーチ
陸斗は、ジャンプと回転力、そのスピード、空中感覚、すべて次元が違う選手です。それでも、オリンピックでは、難易度の高い技と姿勢の美しさの両方を完璧にやらないとメダルはとれません。それだけハードルは高いですが、陸斗はそれができる選手です。いまは大会に出場するたびに、もし得点が9点だったら、1点減点の原因はどこにあるのかを徹底的に探して、その1点をつぶす努力を積み重ねています。細かいところでミスをしないように注意して10点満点のダイブを目指しています。やる以上はメダルをめざす、自分のコーチ人生のすべてをかけて挑みたいと思っています。

馬淵崇英コーチと玉井陸斗選手

玉井陸斗選手
オリンピックの飛び込みでメダルをとった選手はまだ日本人にはいないので、自分がオリンピックでメダル争いができたらいいなと思っています。塗り替えられる記録があれば塗り替えたい、そういう気持ちです。でも、もし本当にオリンピックでメダルがとれたら、その時はうれしすぎて何にも言えないかも知れないですね。

玉井選手に東京オリンピックに向けた決意を書いてもらいました。玉井選手が色紙に直筆で書いてくれたのは「メダル獲得」。スーパー中学生の大きな夢が実現することを願って止みません。

(この記事は、2020年3月にNHKサイトで掲載されたものです。)

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