男子100m決勝で際立った新勢力の台頭
世界と日本の「差」を朝原宣治が解説

陸上男子100メートルで金メダルを獲得したヤコブス。今大会で自己ベストを3度更新し、「最速の男」となった 陸上男子100メートルで金メダルを獲得したヤコブス。今大会で自己ベストを3度更新し、「最速の男」となった【Photo by David Ramos/Getty Images】

 東京五輪10日目となった8月1日、国立競技場で男子100メートル決勝が行われ、ラモントマルチェル・ヤコブス(イタリア)が9秒80で優勝。大会前まで注目度があまり高くなかった伏兵が、同種目でイタリアに初の金メダルをもたらし、「最速の男」の称号を得た。また、蘇炳添(中国)が初の決勝進出を果たすなど、新勢力の台頭が目立つレースとなった。  一方で日本勢89年ぶりの決勝進出を期待された山縣亮太(セイコー)、多田修平(住友電工)、小池祐貴(住友電工)は、前日の予選でそろって敗退。“史上最強”のメンバーとの呼び声が高かったものの、本来の走りを見せられなかった。  イタリア、中国、ナイジェリアなど新興国からファイナリストが誕生した今大会の男子100メートル決勝。世界の短距離界のトレンドはどうなっているのか。日本短距離界のパイオニアで、北京五輪男子4×100メートルリレーの銀メダリストの朝原宣治さんに解説してもらった。また、思うように結果が出なかった日本勢の走りの分析、期待される男子4×100メートルリレーの展望についても聞いた。

本番で自己ベストを更新し続けた新勢力たち

中国勢初の決勝進出を果たした蘇炳添(右)。173センチと小柄だが、馬力の強さとバランスのよい走りが武器だ 中国勢初の決勝進出を果たした蘇炳添(右)。173センチと小柄だが、馬力の強さとバランスのよい走りが武器だ【Photo by Patrick Smith/Getty Images】

 男子100メートル決勝は予想外の結末になりました。銀メダルのフレッド・カーリー(米国)選手と銅メダルのアンドレ・ドグラス(カナダ)選手は前評判どおりでしたが、ヤコブス選手がまさか金メダルを取るとは思ってもみませんでしたね。2021年5月に9秒95のイタリア記録を更新してはいるのですが、東京五輪の舞台で予選から決勝まですべて自己ベストを更新し続けたのは、ちょっと驚異的ですよ。普通では考えられない快進撃でしたね。  ヤコブス選手の走り方を見ていると、本当にフォームが美しいんですよね。スタートから足の回転に無駄がなく、足を跳ね上げずに効率よく力を前に運んでいました。これまでは前半に強い選手という印象がありましたが、今大会のレースでは中盤から後半にかけての伸びが素晴らしかったですね。決勝では9秒80のヨーロッパ新記録での優勝を果たすなど、レースごとに驚きを提供してくれました。  今大会、もう1つ衝撃だったのは、6位入賞の蘇炳添選手が準決勝で9秒83のアジア記録を更新したことです。これまで彼が持っていたアジア記録は9秒91だったので、多くの日本人選手が彼に追いつき、追い抜くことを目指していたと思います。ただ、今大会で簡単にはその領域には踏み込めないほど、遠くに行かれてしまった印象ですね。  準決勝のレースでは、スタートがものすごくよかったんですよ。蹴り出した力のベクトルが上下左右に少しもぶれることなく、走る方向にまっすぐ伝えることができていました。非常にバランスの取れた走りでしたね。短距離において重要な初速がうまくハマったうえで、最後まで乱れることなく走り切れたので、9秒83という記録につながったのでしょう。 「人類最速の男」と呼ばれたウサイン・ボルト(ジャマイカ)氏を筆頭に、リオデジャネイロ五輪まではジャマイカの選手が決勝の常連でした。しかし、今回の決勝はだいぶ顔ぶれが変わりましたね。ヤコブス選手はイタリア、蘇炳添選手は中国ですし、ナイジェリアの選手も台頭してきています。いわゆる短距離の強豪国だけでなく、新勢力が存在感を見せることで、いろんな国がしのぎを削る戦いになりました。世界のレベルは底上げされているように感じますね。

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