東京五輪開幕戦で好投のソフトボール上野
「必死に戦う思い、福島の地に置いて帰る」

無観客開催のオープニングゲーム

東京五輪のソフトボール開幕戦を前に整列する日本(奥)とオーストラリアの選手=21日午前、福島県営あづま球場 東京五輪のソフトボール開幕戦を前に整列する日本(奥)とオーストラリアの選手=21日午前、福島県営あづま球場【共同】

 コロナ禍で1年延期となった東京五輪が、ついに幕を開けた。7月21日の午前9時、福島あづま球場で真っ先に開幕したのは、ソフトボール。オープニングゲームは、日本対豪州の好カードだ。五輪でソフトボールが行われるのは、日本が優勝した2008年北京五輪以来13年ぶり。豪州は、その大会で日本が決勝進出をかけてタイブレーク延長12回の激闘を繰り広げた好敵手だ。日本の先発は、北京五輪で準決勝以降に2日で3試合、413球を投げ切って日本を優勝に導いたベテランの上野由岐子。豪州は、日本リーグのSGホールディングスでプレーする左腕のカイア・パーナビー。注目が集まる開幕戦にふさわしい要素がそろった。ただ1点、無観客という大きな欠落を除けば。  試合が始まる前のことを少し紹介したい。試合開始2時間前の午前7時、私は福島駅近辺から関係者用のバスに乗って会場へ向かった。車中では、東北大震災からの復興を含めた福島県のPR映像が流れた。英語のアナウンスや字幕付きだ。ちょうど、桃を使った料理の映像が出てきたところで、車窓からは果樹園が見えた。福島駅から西へ10キロほど離れた福島あづま球場へ続く道の途中、県道5号は「フルーツライン」と名付けられている。本来なら、外国や他県から多くの人が訪れ、試合を観戦するだけでなく、こうした映像を見たり、当地のグルメを楽しんだりして賑わうはずだったと思うと、無観客開催であるという現実は寂しく、悔しい限りだった。  選手たちもスタジアムで観戦してほしいという思いは、強かった。上野は、無観客開催の感想を聞かれると、2018年に自国で開催された世界選手権(決勝戦、延長10回で米国に敗れて銀メダル)の思い出を引き合いに、こう言った。 「無観客開催に関しては、すごく残念な気持ちが大きいです。2018年の千葉での世界選手権。最後の決勝戦で延長になる死闘になったときの、スタンドからの上野コールでどれだけ背中を押してもらったかという、あの感動は、今でも忘れない。あの声援があったからこそ、あそこまで投げ切れて、また、その声援に応えられなかった自分のふがいなさや悔しさは、今でも忘れていない。その恩返しとして、今大会は絶対にあのときのリベンジをしてやろうと、そういう思いで臨んだ大会でもある。そういった意味では、背中を押してもらえる声援がないのは、正直、寂しい思いでいっぱいです」  それでも、大会は中止にはならず、グラウンドで思いを表現できる場は設けられ、ついに開幕した。日本は、1回表にいきなり一死満塁のピンチを迎え、死球で先制点を与えてしまったが、1回裏にすぐに追いつくと、3回裏に3番打者の内藤実穂が2ランホームランを放って3-1と勝ち越し。初回は不安定だった上野も「ワクワク感が大き過ぎて、興奮し過ぎないように、投げ急がないようにと丁寧に入り過ぎた。2回からはデータにとらわれず、感じるままに勝負するピッチングに戻せた」と話したように、回を追うごとに三振を多く取るようになり、ペースアップ。試合は5回表に4番打者の山本優の2ランで8-1としたところでコールド勝ちとなり、東京五輪の日本代表チームとして最高の形で、先陣を切った。

憧れの五輪がついに開催された喜び

13年間待ち続けた五輪の舞台。無観客の寂しさを上回る熱量で「ただ、がむしゃらに、必死に、グラウンドで戦っていく」と上野 13年間待ち続けた五輪の舞台。無観客の寂しさを上回る熱量で「ただ、がむしゃらに、必死に、グラウンドで戦っていく」と上野【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 初日、選手たちの話を聞いていて、何よりも強く感じたのは、憧れ続けた五輪が行われ、そこでプレーできている喜びだった。3回裏に勝ち越し2ランを打った内藤は「夢の舞台でホームランを打てたことは、うれしい気持ちでいっぱいです」と笑顔を見せた。4回裏にホームランを放った藤田倭も「本当に五輪が開催されるかどうか分からない不安の中で、どうなるんだという気持ちもすごくあったけど、目の覚める一発が打てて、本当に良かった。五輪が始まったら、負けられない戦いがあるというプレッシャーもあったり、いろんな思いをもってこのグラウンドに立てることは、やっぱり幸せなことだなとは思っています」と少し複雑な心境をのぞかせながらも、五輪が本当に開幕したことへの喜びを口にした。  人生をかけて、五輪を目標に積み上げてきた努力の結晶を、これから多くの選手が見せてくれるはずだ。4回3分の1を投げて1失点と好投した上野は、前述の無観客開催の感想の後に、続けてこう言っていた。 「でも、一選手としてグラウンドでやるべきことは変わらないと思いますし、テレビや報道を通してたくさんの方に何かを伝えられるように、ただ、がむしゃらに、必死に、グラウンドで戦っていくだけだと思っているので、そういう思いを、この福島の地にも、置いて帰れるように、明日の一戦も戦っていきたいです」  観戦を望む人が現地で観戦できず、テレビやインターネット配信を通して、あるいは記事を読むといった形でしか大会に触れられないことは、極めて残念だ。東京五輪の開催については、開催可否の判断から、観客の有無、コロナ関連の対応など、あらゆる問題が横たわっている。大会を楽しみにする気持ちがなかなか沸いてこないという人も多いように感じる。それでも、五輪は五輪。アスリートたちは、無観客の寂しさを上回る熱量をもって、必死にプレーする姿を通して、何かを感じてほしいと強く願っている。それを信じて、東京五輪を見てほしい。きっと、何かを感じ取れる。そう思えるオープニングゲームだった。

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開催期間:2021年7月23日〜8月8日

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