東京オリンピック・パラリンピックについて1年程度延期、聖火リレー延期も発表されました。詳細な日程、選考基準などは公式情報が発表され次第更新します。

技―WAZA―

パラ走り高跳び・鈴木徹の“特殊能力”
「脳の進化」でつかんだ2m超えの跳躍

動画提供:朝日新聞デジタル  走り高跳びで2メートルの高さを跳んだことのある現役の義足アスリートは、世界中で鈴木徹(39)だけだ。自己ベストは2メートル02。右足に義足をつけて跳躍する難しさを、「足首の機能がなく、制御できないことにある」と説明する。  スキーブーツを履いて歩いた経験はないだろうか。足首が曲がらない状態では歩きにくく、高く跳び上がることもままならない。例えて言うなら鈴木はそんな状態で、反対側の健康な左足で踏み切って2メートルのバーを跳び越える。  跳躍の肝は、義足を足首のように使えるかどうか。39歳のすごさは、義足では特に難しいカーブでの助走と、踏み切る直前の体の沈み込ませ方にある。  背面跳びの助走は後半にカーブを描き、スピードを落とさずにどう内傾姿勢を維持するかが記録を左右する。鈴木は健常者のように足首の可動域を生かして内側に傾けることができない。  そこで、「義足の内側が着地した瞬間にグッと踏み込む」。そうすることで義足を斜めに固め、上体を傾けやすくしている。ヒントを得たのは2015年、息子とのスキー体験だった。ターンの時に内側にエッジを立てる感覚が「使える」と直感した。これまではカーブで義足が外側に倒れてしまうことが多かったが、「着地の時に内側に力を加えれば義足は倒れず、カーブの助走はよりスムーズになった」と話す。

義足とは逆足で踏み切る鈴木徹 義足とは逆足で踏み切る鈴木徹【提供:朝日新聞デジタル】

 助走の水平速度を垂直方向に変換する動作においても、技術の妙がある。  跳躍のラスト3歩は「タン・タ・タン」のリズムをとる。鈴木が最も大事だと言うのが、踏み切り一歩前の「タ」。ここでは義足で接地し、地面からの反発力を下半身に蓄えるため、体をスッと沈み込ませる作業が必要だからだ。  それまでの助走から一転、ここでは義足の外側を使う。  義足を外側から内側へ滑らせるように体重を移動させ、重心を下げていく。「今は自然な流れで重心を下げられている。特に意識はしていない」。沈み込んでためた力を、最後はバーに向けて解放させる。

跳躍する鈴木徹 跳躍する鈴木徹【提供:朝日新聞デジタル】

 片足が義足の状態で、なぜ高いパフォーマンスを発揮できるのか。理由の一つが、「脳の進化」だ。  通常、人は右の手足を動かすと脳の左側が反応し、左の手足を動かすと右側の脳が働く。東京大の中沢公孝教授(リハビリテーション科学)が鈴木の脳を調査したところ、義足側の右ひざを動かすと、左側だけでなく、右側の脳も活発に働いていたことが分かった。同じような現象は義足の男子走り幅跳びで、8メートル48の世界記録を持つマルクス・レーム(ドイツ)など、パラのトップアスリートに見られる現象で、中沢教授は「パラリンピックブレイン」と呼んでいる。  鈴木は1メートル78をマークした2000年パラリンピック・シドニー大会の頃から今季まで義足を変えず、その操作技術を高めてきた。中沢教授は「高度な練習を積んできたことで、通常は使われていない神経経路まで使われるようになったのでは」と分析する。  この結果を伝え聞いた鈴木は安心したという。「だって同じ結果だったら、長年何をやっていたんだと。結果が違っていてよかった。脳の変化は義足がうまく使えるようになった証拠で、普段の生活では獲得できなかった能力が備わったんですから」  交通事故で右足を失い、日々の鍛錬で体得した「特殊能力」。東京大会は躍動するパラアスリートを見ながら、人間の可能性について思いを巡らせてみるのも悪くはない。(榊原一生、写真=西畑志朗) ※本記事は朝日新聞デジタル『WAZA』からの転載です。掲載内容は朝日新聞デジタルで掲載した当時(2019年10月23日)のものです。

鈴木徹(すずき・とおる)

義足を手に説明する鈴木徹 義足を手に説明する鈴木徹【提供:朝日新聞デジタル】

1980年生まれ、山梨県出身。高校時代はハンドボール部に所属し国体3位に入ったが、卒業前に交通事故で右足ひざ下を切断。パラリンピックは過去5大会に出場し、4位が最高。片脚に義足を着ける「T64クラス」の世界記録保持者。SMBC日興証券に所属。

関連リンク

競技紹介

${list[returnRandomCount].credit}

${list[returnRandomCount].eventName}

${returnCompetition(list[returnRandomCount].eventId)}

${list[returnRandomCount].text}

競技一覧

おすすめ情報