延期で話題“オリンピック憲章”とは何か
「五輪は国家間の競争ではない」

なぜ国別メダルランキングができたのか?

個人の栄誉を称えて送られるメダルだが、近年は国家間競争の1つの象徴にもなっている 個人の栄誉を称えて送られるメダルだが、近年は国家間競争の1つの象徴にもなっている【写真:ロイター/アフロ】

――五輪と言えば、毎大会どの国や地域がいくつメダルを取るかが話題となりますね。東京大会では日本も金メダル30個を目標に掲げています。  実は、その考え方はオリンピズムの根本原則に反しているんですよ。オリンピック憲章にも「オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない」と明記されています。したがって、国や地域という単位でメダル争いをすべきではないし、メダルの数を競うべきでもありません。 ――では、なぜ今日のような国同士のメダル競争になっているのでしょう?  近代五輪の歴史において、きっかけは2つあったと言われています。まず、1908年のロンドン大会で、それまで個人による参加だったのがNOCを通じて行われ、国旗を用いた入場行進が初めて採用されたこと。ナショナリズムがあおられて、国と国の競争が盛り上がりました。このとき、互いをライバル視する英国と米国の行き過ぎた競争を危惧した大司教の説教に、クーベルタンが感銘を受け、司教の言葉を引用して「オリンピックで重要なことは、勝つことではなく参加することである」と言ったのはとても有名です。これには続きがあって、「人生で重要なことは、勝利することではなく闘うことである。その本質は打ち克つことではなく、よく闘ったことにある」という名言が遺されています。 ――もうひとつは?  第二次世界大戦後の米国とソ連(旧ソビエト連邦)による東西冷戦です。1952年ヘルシンキ大会からソ連が五輪に加わり、東西で選手村を分けることなど無理な要求をIOCにしました。しかし、その一方でソ連は強豪国・米国と並ぶ競技力を誇り、東西冷戦において力を示す場にしました。この2つがきっかけとなって、国家間のメダル競争が過熱していったと言われています。

なぜ延期してまで大会を開くのか?

五輪開幕までのカウントダウンが再び始まった。困難な時期だからこそ、あらためて五輪の理念、平和への思いを見つめ直したい 五輪開幕までのカウントダウンが再び始まった。困難な時期だからこそ、あらためて五輪の理念、平和への思いを見つめ直したい【写真:アフロ】

――2021年7月23日の五輪開幕まで1年以上ありますが、その間にもし新型コロナウイルス感染症の拡大が終息しなかった場合、再度の延期や中止はあると思いますか?  今回の五輪・パラリンピックは「人命ファースト」です。人の命が優先と考えれば、もしかすると、来年の夏も東京で五輪・パラリンピックを開けない恐れだってあるでしょう。ただ、IOCとしては再び延期することはあっても中止という選択肢はないと、私は見ています。それはIOCが推し進めるオリンピック・ムーブメントの敗北を意味するからです。また、不参加国・地域がある場合もIOCとしては大会を開催したくないと思います。 ――来夏の東京五輪・パラリンピック開幕までに、私たち一般の人々にできることはありますか?  五輪の意義や目的を知り、なぜ延期してまで大会を開くのかということを、みんなで考え直す良いきっかにしてはどうでしょう。「五輪はメダルをたくさん獲得するためにやるんじゃないよ。競技の一方で、ホスト国や参加国・地域の人々が一堂に会し、交流することで、異なる文化を理解し、平和な世界につなげる機会なんだよ。そこにスポーツは貢献するんだよ」ということをたくさんの人に知ってほしいです。 ――福島では4月2日から聖火の一般公開が始まりましたね。  聖火も、ただ留め置くのではなく、その期間をうまく利用できないかと考えます。奇しくも開催が2021年に延期されたことで、東日本大震災から10年の節目と重なります。もともと「復興五輪」を掲げて招致した東京大会ですから、聖火を「復興の火」として、特に子どもたちの教育に活用してほしいですね。

プロフィール

舛本直文(ますもと・なおふみ) 1950年広島県生まれ。広島大学卒、東京教育大学大学院修了。筑波大学、東京都立大学を経て、首都大学東京教授。2016年に同大学を定年退職後、同大学特任教授に就く。2020年4月1日から東京都立大学、武蔵野大学の客員教授。専門はオリンピック研究で、自称「オリンピズムの伝道師」。オリンピックの現地視察は2000年シドニー大会より。ユースオリンピックは2010年大会からすべて視察している。

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