文田健一郎が貫く常に自然体のレスリング
豪快な投げ技がグレコローマンの流儀

レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級で、金メダルが期待される文田健一郎が競技の魅力を語った
レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級で、金メダルが期待される文田健一郎が競技の魅力を語った【写真:C-NAPS編集部】

 メダルが獲得できれば快挙と言われる五輪において、レスリングはメダル獲得の期待値が特に高い競技である。“日本のお家芸”とも呼ばれ、階級問わず金メダル獲得が至上命題。「日本人なら勝って当たり前」という世論が多数を占める中で、五輪を戦い抜くプレッシャーは想像を絶するものがある。しかし、そんな周囲からの期待を重圧と感じずに、常に自然体で目の前の試合に臨んでいる選手がいる。男子グレコローマンスタイル60キロ級日本代表の文田健一郎(ミキハウス)だ。

 文田は物怖じしない性格とマット上での勝負強さを武器に、2019年6月の全日本選抜選手権では同じ日本体育大学出身の太田忍(ALSOK)との死闘を制した。そして、同年9月の世界選手権で金メダルを獲得して東京五輪出場の切符を手にしている。

 そんな文田の次なる目標は、もちろん東京五輪表彰台の頂。「豪快な投げ技での勝利にこだわりたい」と語る文田に、レスリングそしてグレコローマンスタイルのルールや魅力を聞いた。また、共に切磋琢磨(せっさたくま)する盟友であり、五輪では二人そろっての金メダル獲得を目指す先輩・太田との絆についても語ってもらった。

豪快な投げ技が魅力的なグレコローマンスタイル

レスリングでは常に攻めの姿勢を貫くことが求められる。試合を面白くするためのルール改正も頻繁にあるそうだ
レスリングでは常に攻めの姿勢を貫くことが求められる。試合を面白くするためのルール改正も頻繁にあるそうだ【Getty Images】

 レスリングは一対一で体をぶつけ合って、技によって相手をねじ伏せるとてもシンプルな競技です。種目は僕が専門とするグレコローマンスタイルとフリースタイルの2種類があります。まずは両スタイルに共通するルールから説明しましょう。試合は直径9メートルの円形マットの上で3分間×2ピリオド制で行われます。互いに立った状態から相手を組み伏せてマットに両肩を1秒以上付けると「フォール」といって、その時点で勝利が確定します。柔道の一本勝ちみたいなイメージですね。

 フォールできない場合は、獲得した得点によって勝敗が決します。グレコローマンは8点差、フリースタイルは10点差付くとその場で「テクニカル・フォール」となり試合終了です。得点パターンは何種類かあり、相手の背中をマットに付ければ4点、相手の背後を取って腹ばいにさせたら2点、その状態から相手の肩をマットに対して90度以上ひっくり返すと追加で2点入ります。この基本の3種類を覚えておけば、初心者の方でも得点の経過が分かりやすいと思います。

 その他、同点で試合が終わっても延長戦には突入しないのもレスリングの特徴ですね。試合終了時に同点の場合はニつの条件によって勝敗が決まります。まずは技の得点が大きい選手が勝利を収める「ビッグポイント」。例えば、両者同点でA選手の得点構成が「2点・2点」で、B選手が「4点」だとすると、獲得した得点の大きいB選手が勝利します。それも同じ場合は試合の中で最後に得点した選手が勝利する「ラストポイント」によって決まります。最後まで攻めの姿勢を貫くことが美徳とされるレスリングならではのルールですね。

 実はレスリングは頻繁にルール改正があって、4年に一度はルールを変更することが規定されているんです。これはレスリング関係者以外、恐らく知らないと思いますね。五輪が終わったらルールが変わるのがこれまでの流れなので、選手としてはその時のルールに応じたレスリングを確立することが重要です。僕は常に最新のルールを研究しているので、ルール改正があってもそれに合わせた自分のレスリングスタイルを築けるように日々の練習に取り組んでいます。

グレコローマンの醍醐味は何と言っても豪快な投げ技。文田が得意とする反り投げは柔軟性が不可欠な技だ
グレコローマンの醍醐味は何と言っても豪快な投げ技。文田が得意とする反り投げは柔軟性が不可欠な技だ【Getty Images】

 次にグレコローマンとフリースタイルの違いですが、もっとも分かりやすいのは相手への攻撃範囲です。フリースタイルは全身を攻められるのに対し、グレコローマンは腰から下への攻撃は一切禁止。そのため、相手の上半身を持ち上げて投げ技を決めるド派手なシーンが頻繁に見られます。屈強な男たちがあられもなく宙を舞う展開こそがグレコローマンの特徴であり、魅力ですね。プロレス技のような豪快な投げ技をイメージしてもらえるといいかもしれません。

 下半身を狙えるフリースタイルでは、少し離れた距離で間合いを取るのが基本ですが、グレコローマンの場合は常に相手と胸を付け合ってお互いに全力で押し合いをしています。見た目はすごく地味ですが、選手としては一番キツい状況なんですよね(笑)。試合の主導権を握るためにも押し合いに勝つことが重要なポイントになるので、拮抗(きっこう)している状況をどう打破するかにも注目してもらえるとうれしいです。

 ちなみに自分の得意技は相手の背中を取って後ろに投げつける「反り投げ」です。猫好きが高じて「ニャンコ投げ」とも呼ばれています(笑)。この技を繰り出すための秘訣は体の柔軟性。背中と腰と首のすべてを反り返した状態で相手を投げるので、それこそ猫のような反りやしなやかさが求められるんです。

 柔軟性は幼い頃の環境によって養われましたね。父親が地元の高校でレスリング部の監督をしていたので日頃から道場に押しかけて、マットの上で走り回って前転や後転などをしてよく遊んでいました。昔からマットの上にいる時間がすごく長かったので、自然とレスリングで必要な動作や柔軟性が身に付いたのだと思います。

C-NAPS編集部
C-NAPS編集部
ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。