加藤健人が思い描く「目に映らぬピッチ」
音と空間認知で戦うブラインドサッカー

ブラインドサッカーこと5人制サッカーの醍醐味や、視覚のない状態でのプレーについて語る加藤健人
ブラインドサッカーこと5人制サッカーの醍醐味や、視覚のない状態でのプレーについて語る加藤健人【写真:C-NAPS編集部】

 世界中の人々に愛され、もっとも人気のあるスポーツの一つ「サッカー」。ボール一個あれば楽しめる大衆スポーツなだけに、数多くの競技者を抱えている。そして、その人気は「視覚障がいのある人」にとっても例外ではない。視覚障がいのある選手を対象とするサッカーは、日本では「ブラインドサッカー」という名で親しまれ、パラリンピックでも「5人制サッカー」として過去4大会で多くの人々を魅了してきた。そんな競技において、初のパラリンピック出場に向けて闘志を燃やしているのが加藤健人(埼玉T.Wings)だ。

 18歳の頃に、徐々に視力が低下していく遺伝性視神経症「レーベル病」が発覚。Jリーガーになる夢が絶たれた加藤だったが、両親のすすめでブラインドサッカーに出会うと状況は好転する。ボールを蹴る喜びを再び味わった加藤はすぐに頭角を現し、2007年に日本代表入り。その後は10年以上にわたり国際舞台でも活躍を続けている。今回はそんな加藤に、ブラインドサッカーの醍醐味や観戦の注目ポイントを聞いた。また、日本代表がまだ立ったことがない夢舞台・パラリンピックへの熱い思いも語ってもらった。

「声」のコミュニケーションがブラインドサッカーの特徴

 ブラインドサッカーという名は、実は通称なのをご存知でしょうか。パラリンピックの競技名は「5人制サッカー」なので、チケットを購入する際に「ブラインドサッカー」がなくて困惑した方もいたかもしれません。どちらかと言うとサッカーよりはフットサルのイメージに近いですね。コートの大きさや人数などはフットサルに類似しています。フィールドプレイヤーは4人で、全盲と言っても義眼の人もいれば、光を感じられる人まで幅があるため、公平を期すために全員アイマスクをつけてプレーするのが大きな特徴です。

 5人目のゴールキーパーのみ晴眼(視覚障がいがない選手)、または弱視の選手が務めるのもブラインドサッカーならではのルール。また、フィールドプレイヤーの視界は完全に遮断されているため、「声」のコミュニケーションが非常に重要です。味方ゴールキーパーが自陣後方から指示を出し、センターライン付近にいる監督がピッチ中盤を指揮します。そして、相手ゴール裏にゴールの位置や距離、角度などを伝えるガイドが陣取ることで、「後方・中盤・前方」と目視できる3方向からの声を頼りにしてゴールを目指します。

 また、目が見える味方だけでなく、フィールドプレイヤーの声にも注目ですね。相手のボールを取りに行く時に「Voy! Voy!」と掛け声を発します。黙って取りに行くと接触の危険があるので掛け声を発しますが、その迫力がすごいんです。「Voy」は、スペイン語で「行く」という意味。衝突を避けるのはもちろん、「自分がここにいるよ」というアピールも同時に行うことで、相手に威圧感を与える心理的な効果もあります。

多くの人が想像する以上に激しくスピーディーなブラインドサッカー。加藤(6番)は「音」や「空間認知」が重要だと語る
多くの人が想像する以上に激しくスピーディーなブラインドサッカー。加藤(6番)は「音」や「空間認知」が重要だと語る【(C)JBFA/H.Wanibe】

 また、ボールの「音」にも注目です。ボールが転がるとマラカスのようにシャカシャカと音が鳴るので、それを頼りにプレーします。ボールの転がり方やピッチコンディションによって聞こえ方が変わるので、選手がいかに聞き分けてボールとの距離感をつかめるかが重要になってくるんです。例えば、雨の日はボールが速く転がるので、トラップや蹴る強さを調整したり、ドリブルする際も転がりやすいのでスピードを抑えたりするなど、音の聞こえ方が状況判断するうえでかなりのウエートを占めます。

 健常者の方は、どうやって「空間認知」をしているか疑問に思うかもしれません。もちろん、声や音を頼りにしますが、感覚的なものも非常に重要になります。自分は10年以上プレーしているので、ボールとの距離感などはつかめていますが、初めてアイマスクをつけてプレーする際は、ほとんどの人が苦戦しますね。今でもコートを歩いて広さを確かめるなど自分の感覚を確認します。空間認知ができているとプレーもスムーズにいくんです。ただ、プレーに夢中になりすぎると、たまに距離感を誤りますね(笑)。

 ブラインドサッカーはみなさんが思っている以上にスピーディーで激しい競技なんです。そうしたプレーを可能にするのも音や空間認知なんですよね。目は見えなくとも、頭の中でどんなプレーができているのかをイメージできています。だからこそ、ボールを持っていない選手にも注目してほしいです。例えば、自分のチームの攻撃中は逆サイドでパスをもらえるポジション取りをするなど、考えながらプレーしています。見えていれば当たり前のことですが、見えない状態でそれを実践することは決して簡単ではないんですよね。

C-NAPS編集部
C-NAPS編集部
ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。