濃霧の予想も東京五輪成功の鍵?
サーフィンのテストイベントが示した課題

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会で活躍する「スポーツマネジャー」。各競技の運営責任者として国内・国際競技連盟等との調整役を務め、大会を成功に導く重要な責務を担っている。

 東京2020大会の追加種目であるサーフィン競技では、7月18日〜21日に千葉・一宮町の釣ヶ崎海岸にてテストイベント「READY STEADY TOKYOーサーフィン」が行われた。本番に向けてさまざまな想定をし、その確認作業ができた一方で、これまでにない競技進行に選手からは戸惑いの声もあったという。サーフィン競技スポーツマネジャーの井本公文さんにテストイベントを振り返っていただいた。

初日から予定変更に……感じたサーフィンならではの難しさ

本番と同じ会場で行われたテストイベント。井本さんはあらためてサーフィンならではの競技運営の難しさを感じたという
本番と同じ会場で行われたテストイベント。井本さんはあらためてサーフィンならではの競技運営の難しさを感じたという【写真は共同】

 7月18日〜21日、釣ヶ崎海岸でオリンピック本番の予行練習となるテストイベント「READY STEADY TOKYOーサーフィン」を開催しました。ジャッジシステムなど、機器の動作確認や運営スタッフの動き、選手導線の確認などを主な目的とし、組織委員会のスタッフ120人、ボランティア80人のほか、地元警察や海上保安庁にも参加いただきました。特に一般の観客への公開は行っていませんが、オリンピックと同じスケジュール進行による本番さながらのテストイベントとなりました。

 テスト項目の1つである機器については最新機器を導入できたため、大きな不具合はありませんでした。一方で、さまざまな状況を想定していたものの、あらためて難しいと思ったのは、天候における運営側の判断です。冬季オリンピックのスキージャンプなどと同じように、サーフィンも気象条件により競技運営に大きく影響が出る競技です。テストイベント初日も朝7時に競技開始の予定でしたが、5時55分の時点で霧が出始めて次第に濃霧になり、スタートを遅らせることになりました。

 しかし、霧が晴れるのを予測するのはベテランスタッフでも難しい。私自身「10時ぐらいのスタートかな」と予測しましたが、波予想の専門家や国際サーフィン連盟のテクニカルディレクター、組織委員会の間で、「どんな基準で開始時刻を判断するか」「低気圧が今このあたりなので風がこう吹くはずだから、この時間のスタートで大丈夫だろう」などと議論し、1時間遅れの8時スタートに決定。その後、7時40分に霧が晴れて、無事8時に競技を開始することができました。

 霧の状況について、今回は予想通りに進みましたが、予想通りにならい場合、選手やテレビ局を含めた関係各所に競技の中断や再開について、どの時点でどう連絡すべきかなどを、事前にシミュレーションしておく必要があると感じました。

 加えてセキュリティー面でも課題を見つけることができました。例えば今回霧が発生した際、選手たちは通常の試合と同じように、霧が少し晴れてきた段階で海に入ってウオーミングアップを始めようとしました。しかし、運営側はセキュリティーの観点から選手の安全性を第一に考えて、「霧が晴れないと海へは入れない」というオリンピック本番でのルールに従って海に入ることを許可しませんでした。もちろんベストパフォーマンスを発揮するために十分なウオーミングアップをしたいという選手の気持ちも分かりますが、オリンピックのルールに則り、両者の認識の違いを埋めていくことも本番までの課題だと思っています。

 また、ボランティアを含めた現場スタッフの健康管理も、注意すべきポイントであると実感しました。サーフィンは、真夏のアウトドアスポーツなので、継続的に水分補給や日焼け防止を心掛けるよう現場リーダーに伝えてはいたものの、体調を崩すスタッフが何人か出てしまいました。われわれももっと現場スタッフに気配りできるよう、声かけはさらに強化したいと考えています。

よりオリンピックを楽しんでもらうために

選手導線も本番と同じ。「ミックスゾーン」と呼ばれる競技後の取材エリアでは記者たちが待ち構えていた
選手導線も本番と同じ。「ミックスゾーン」と呼ばれる競技後の取材エリアでは記者たちが待ち構えていた【写真:松尾/アフロスポーツ】

 今回のテストイベントは、3日間でいろいろな課題を発見することができました。初めて大会運営に参加した組織委員会のスタッフも、サーフィンがいかに波や霧などの自然条件に影響を大きく受ける競技であるかを実感できたと思いますし、天候によるスケジュール変更の可能性について以前より理解が深まったように思います。また、遅延や日程変更に伴う観客への案内の仕方など、これから対応を考えていく必要のあるテーマも明確にすることができました。

 テストイベントに参加した選手からは、スタッフの誘導が親切だったことや、新しく導入されたプライオリティーボード(波に乗る優先権を持つサーファーを示す掲示板)が「通常よりかなり大きく見やすかった」というポジティブな感想が出た一方で、ビーチアナウンサーが選手紹介をしてから海に入ったり、海から上がってきて取材を受けたりする流れなど、通常の大会とは異なるオリンピック特有の進め方に、ベテランの選手であればあるほど戸惑う声があったように思いました。

新たに導入されたプライオリティーボードは選手からも好評だった
新たに導入されたプライオリティーボードは選手からも好評だった【写真:松尾/アフロスポーツ】

 しかし、サーフィンをもっとメジャーな競技にするためには、選手に一つ一つ丁寧に説明して理解してもらいながら、選手も観客も楽しめるような方向へと少しずつ変えていきたいと思っています。同時に、運営側である私たちもテストイベントで試したことをしっかりと検証し、改善していくことで、少しずつ運営スキルが上がってきており、同時に成長もさせてもらっていると感じます。

 テストイベントからおよそ2カ月後の9月7日〜15日に宮崎県宮崎市木崎浜海岸で開催された「ISAワールドサーフィンゲームス」では、組織委員会職員も運営に一部関わらせていただくことで、テストイベントで明確になった課題や反省点を再チェックすることができました。われわれのテストイベントはテスト項目に注力するため無観客で行いましたが、ワールドサーフィンゲームスでは観客がいる状態でさまざまな状況を確認でき、さらなる課題や修正すべき点を見つけることができました。これらは本番までに一つずつ解消していきたいと思っています。

 ワールドサーフィンゲームスでは、Def Techや平井大といった著名なアーティストを招いてのフェスティバルも開催されました。サーフィンの大会ではこうしたイベントは付きものですが、今回「オリンピックサーフィンフェスティバル(仮称)」を踏まえた催しが行われたことで、オリンピック本番にサーフィン会場で行われるフェスティバルについてもどんなものかを具体的にイメージしやすくなり、イベントの実施計画もより具体的に進められるのではないかと思っています。ブースコンテンツについては次回以降、本連載でご紹介できればと考えています。

プロフィール

井本 公文(いもと きみふみ)
1971年生まれ、静岡県在住。サーフィンとスノーボードの選手として全日本選手権に出場し、専門店も起業。サーフィンの審判員を経て、一般財団法人日本サーフィン連盟の理事に就任。チームジャパン代表監督として、世界選手権や世界ジュニア選手権に参加。日本サーフィン連盟副理事長、強化委員長を務めながら、17年7月より、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のサーフィン競技スポーツマネジャーに就任。

構成:高島三幸
ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。