連載:アスリートに聞いた自競技の“五輪観戦力”の高め方
山本篤が挑む世界記録と自分との戦い
パラ走り幅跳びにおける「義足」の美学

東京2020でも活躍が期待されるレジェンド・山本篤がパラ陸上の魅力について語る
東京2020でも活躍が期待されるレジェンド・山本篤がパラ陸上の魅力について語る【写真:C-NAPS編集部】

「日本パラスポーツ界の第一人者は誰か」との問いに、多くの人はこの男の名を挙げるだろう。山本篤(新日本住設)――世界にその名を轟かせる、日本を代表する“義足アスリート”だ。初出場となった2008年北京パラリンピックの走り幅跳びで銀メダルを獲得。義足の日本人陸上選手で初めてのパラリンピック・メダリストとなった。

 その後も走り幅跳び、100メートル、200メートルなど複数の競技で活躍し、12年ロンドン、16年リオデジャネイロとパラリンピックに連続して出場。リオでは再び走り幅跳びで銀メダルを、さらに4×100メートルリレーでも銅メダルを獲得した。そして、18年平昌パラリンピックではスノーボード日本代表として、冬季パラリンピック初出場も果たしている。

 常に自分自身と向き合い、最高のパフォーマンスでの世界記録更新を目指すレジェンドの勇敢な姿に憧れるパラアスリートも多い。そんな山本に、パラ陸上や“義足”で走り、跳ぶ魅力や東京パラリンピックへの思いを聞いた。

より高く跳べる、義足だからこその魅力

 パラ陸上には、車いす、視覚障がい、四肢の切断、脳性まひ、知的障がいなど、いろいろなカテゴリーの選手がいます。すべてを語るには範囲が広すぎるので、今回は僕のように義足を使っているアスリートにフォーカスしてお話したいと思います。

 パラスポーツでは障がいの程度によって「クラス」が分かれていて、僕らは「T63」という、片足が膝より上でなくなっている選手のクラスに属しています。膝関節のところを切断している選手もいれば、僕のように太ももの途中からなくなっている選手もいるなどさまざまですが、基本的には膝関節がなく長い義足を履いている選手たちと一緒に競い合います。

 走り幅跳びに関して言うと、「T63」に加えて、両足の太ももを切断している「T61」、足は失われていないけれど膝関節の機能がない「T42」の3クラスが同じ土俵で記録を争います。走り幅跳びの世界的スターであるドイツのマルクス・レーム選手は、僕のライバルだとよく間違われるんですが、クラスが違います。彼は「T64」の選手なんです。

 各選手は、それぞれ義足のメーカーを自分でチョイスして、基本的には自分で義足の組み立てをしています。どう組み立てればより遠くまで跳べるのか、速く走れるのかを日々考えながらやっているので、ぜひ義足に注目して欲しいですね。

山本は義足の特性を利用することで、より高く、遠くへ跳ぶことを可能にした
山本は義足の特性を利用することで、より高く、遠くへ跳ぶことを可能にした【写真は共同】

 義足のアライメント、取り付け位置によって記録は大きく変わってきます。僕も、今でもいろいろと調整をしながら、「こうしたらどうだろう」といったアイデアが出てきたらすぐに作ってもらって、取り入れるという試行錯誤を繰り返しています。義足も日々進化していますが、大事なのは選手が最大限に使いこなすこと。義足はあくまでもモノでしかなく、動力を生み出して機能を引き出すことが不可欠です。義足の機能と、それを使う能力の両方が相まって、記録は伸びていくと考えています。

 ちなみに日常用の義足と競技用の義足だと、装着した時の感覚は異なります。板バネと呼ばれる競技用のブレードには「跳ねる」感覚があって、それは日常用の義足にはないものです。走り幅跳びでいえば、大半の選手が義足で踏み切るので、義足選手の方が健常者の選手よりも跳ぶ“角度”が高くなるのが特徴ですね。踏み切りの一歩前で健足を使って重心をしっかり落として踏み切って、義足の「曲がって伸びる」という特性をうまく利用することで高く、遠くへ跳ぶことができます。

 助走の速度からすれば、健常者ではありえない距離を跳ぶことができるんです。それが義足の魅力。“義足で跳ぶメリット”を知った上で、体の使い方やテクニックに注目して観戦してもらえると、パラの走り幅跳びがより面白くなると思います。

C-NAPS編集部
C-NAPS編集部
ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。