東京五輪は本当に「やりがい搾取」なのか
ハーバード教授が語る“ボランティア論”

米ハーバード大学経営大学院の竹内弘高さんが、通訳として参加した64年東京五輪の体験談を語った
米ハーバード大学経営大学院の竹内弘高さんが、通訳として参加した64年東京五輪の体験談を語った【スポーツナビ】

 米ハーバード大学経営大学院(HBS)で教鞭を執る竹内弘高さん。競争戦略が専門で、HBSで唯一の日本人教授だ。

 竹内さんは実は、54年前の東京五輪に通訳として参加した経験がある。それは研究者としての道を拓いた、まさに「自分の人生をまるきり変えたイベントだった」という。73歳で迎える2020年大会も、「ボランティアで参加したい」と意欲を燃やす。果たして五輪ボランティアの何に魅了されたのか。「やりがい搾取」などと批判が上がる現状をどう見ているのか。ハーバード大教授の“東京2020ボランティア論”を聞いた。

「これは一生に一度のチャンス」

 1964年当時、竹内さんは横浜市内のインターナショナルスクールに通う高校3年生だった。「戦後復興の象徴」とも言われた64年大会は、いわば国家の一大プロジェクト。通訳は語学に強い大学生が採用され、学校単位で担当競技が割り振られていた。竹内さんはまだ高校生だったが、くしくも父親が日本馬術連盟の役員を務めていたこともあり「お前、興味はあるか?」と誘われた。「これは一生に一度のチャンス」とすぐさま応募。無事採用された竹内少年は、国際基督教大学(ICU)の学生たちとともに、馬術の通訳として1カ月半をともにした。

「あまりにも強烈な経験だった」。竹内さんは当時をそう振り返る。

「(ICUの)お兄さん・お姉さんたちはこんなにもレベルの高い話をしているのかと思いました。僕が分からないことばかり話しているわけです。『ハイデッガーがどうだ』『ニーチェがどうのこうの』とか、そういう議論をしている。高校生の私としては『すごいな』と、ただただ驚き以外の何物でもありませんでした」

大会最終日の馬術競技はかつての“聖地”国立競技場で行われた
大会最終日の馬術競技はかつての“聖地”国立競技場で行われた【写真は共同】

 その頃の竹内さんは、父親の意向もあり米国の大学進学を目指していた。しかし、大会を終えると「あのお兄さん・お姉さんみたいになりたい」と、父親の反対を押し切りICUへ進学。五輪で経験した「日本を海外にアピールすること」を仕事にしたいと一時は外交官を志したが、ビジネスに対する興味が次第に芽生え、会社員を経て経営学者の道へと進んだ。世界的権威となった日本人の転機は、まさに54年前の東京にあったのだ。

「ボランティア」のコンセプトとは何か

 東京2020大会組織委員会は10月23日、ボランティアの募集人数8万人に対して5万2249人が登録を完了したと発表した。応募サイトへの登録者を含めると9万2920人に上る(数字は10月22日10時時点)。応募数は今のところ、増加の推移をたどっている。

 一方で、募集開始前から「やりがい搾取」「ブラックボランティア」などと批判されてきた。実際には条件等は過去大会と同等なのだが、「計10日以上の活動期間」「宿泊先の自己負担・自己手配」などの活動条件がやり玉に上げられた。そんな現状に竹内さんは「電車代や食事代ぐらいは出るわけでしょ? 僕はそれで十分。ボランティア慣れしている人にとってはこれが当たり前」と反論する。

「(現在拠点とする)米国ではボランティアは生活の一部になっています。しかも、全て手弁当。それでもみんな価値があるからやっている。でも、残念ながら日本はボランティア慣れしていないから、『ボランティア』というコンセプトを勘違いしているのではないかと思います」

2012年ロンドン大会では、「ゲームズ・メーカー」と呼ばれるボランティアが大会を盛り上げた
2012年ロンドン大会では、「ゲームズ・メーカー」と呼ばれるボランティアが大会を盛り上げた【写真:Shutterstock/アフロ】

 地震や豪雨などの自然災害が多い日本では、「ボランティア=被災地支援」というイメージが根強い。しかし、「五輪は“商業”というのが先にあって、“tragedy(悲劇)”ではない。だから、被災地でボランティアに参加する人が五輪にも当てはまるかというと、おそらくセグメントが違うのではないか」と分析する。

「五輪の場合は4年に1回のお祭りを成功させたいと思う人たち、おそらく(音楽フェスの)フジロックフェスティバルを成功させたいがためにボランティアをやるタイプの人たちのはずなんですよ。商業目的であることは確かで、『それでも成功させたい』と思うか思わないか。五輪には“思う”側の人たちが来てくれればいいと、僕は思います」

若者の応募を「世界が違うふうに見えてくるかも」

 2020年大会では、若者、特に高校生にぜひ応募してほしいと考えている。「僕の人生が変わったように、若者がこれを体験することによってもしかすると世界が違うふうに見えてくるかもしれない。影響度という意味では、若ければ若いほど鋭いのではないか」との思いがあるからだ。

 そして自身も、2度目の五輪ボランティアに参加するつもりだと話す。希望は前回と同じく、競技を間近に感じられる通訳だ。

「僕にとって、今、若者と接しているのが一番楽しいんです。日本に帰ってくると高校生に接して、素直で純粋な彼らから得るものがたくさんある。そういう意味ですごく楽しみです。いろいろカテゴリーの、特に若い人たちとまたワイワイガヤガヤできるので。今度は僕が先輩になる。だから『世界で勝負するには体を鍛えておけ』とか、いろいろ言ってしまおうかなと思っています(笑)」

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

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