東京オリンピック・パラリンピックを成功に導く重責を担う「スポーツマネジャー」。大会組織委員会内で各競技の運営責任者として、国内および国際競技連盟等との調整役を務めている。 サーフィン競技を担当する井本公文さんは最近、本大会に向けた大きな気付きを得たという。そのきっかけとなったのは、9月15日〜22日に愛知県田原市で行われた「ワールドサーフィンゲームス」。サーフィンの世界選手権に相当する競技会だ。果たして何があったのか。手記でつづってもらった。
「時間がない」東京五輪へ芽生えた危機感
サーフィン世界大会の教訓をどう生かすか
構成:スポーツナビ
会長自ら本番会場でサーフィンも

この秋は、日本のサーフィン界にとっての一大イベントがありました。世界選手権に相当する「ワールドサーフィンゲームス」が28年ぶりに日本で開催されたのです。日本からは男女計4人の選手が派遣され、団体で史上初の金メダル、個人では男子の五十嵐カノア選手が2位に入り、快挙に沸きました。 同じ頃スポーツマネジャーの仕事としても、東京オリンピックに向けてさまざまな進展がありました。まず、9月12、13日の2日間、来日した国際サーフィン連盟(ISA)のスタッフを交えたミーティングを行いました。これは「IF(国際競技連盟)ビジット」と呼ばれていて、組織委員会の各部署が入れ替わり立ち替わりで、みっちり打ち合わせをするものです。 議題は多岐にわたるのですが、競技期間中に開催を予定している「サーフィンフェスティバル」についても話し合いました。今回のワールドゲームスでは、地元の方を中心に食事やステージパフォーマンスを披露いただき、好評をいただきました。オリンピックでも同様に、イベントスペースや飲食が提供される予定です。ただ、東京大会では中身もビジュアル面も、全く異なるイメージになると思います。詳細はお話できませんが、まさに今内容を検討しているところです。
ISAの皆さんとは、本番会場である千葉県一宮町の視察にも同行しました。来日されたフェルナンド・アギーレ会長は毎朝欠かさずサーフィンをされる方で、私も一緒にサーフィンをさせていただきました。ワールドゲームス会場近くにあるスポットにも行きました。ものすごくバタバタとしている中で、会長自ら「サーフィンに行くぞ!」と(笑)。こういった交流は、サーフィンならではの面白いところではないでしょうか。
台風で予定変更も “想定外”の対応に課題
ワールドゲームスの期間中は、ISAと大会実行委員会とのつなぎ役として、競技時間を調整したり、各所に決定事項を通達するなどの運営業務を行いました。オリンピック本番でも、私の仕事はまさにこういったことになるのではないかと思います。 ただ、実際にやってみて、課題の多い大会となりました。事前準備に関しては全く問題なかったのですが、ふたを開けてみたら「あれができない、これもできない」ということが多くなってしまいました。 特に今後改善しなければいけないと思ったのは、「人」の部分です。イベント運営では想定外のことがたくさんありますが、それに耐えうるスタッフがいなかったと感じました。例えば、関西国際空港が台風21号により封鎖された影響で、各国の選手団やスタッフは急遽、成田空港から現地入りすることになりました。スタッフが彼らを迎えに行かなければならなかったのですが、スタッフはみんな会場のある田原市内に入ってしまっていたので、選手たちをどう会場まで輸送するかという課題にぶつかりました。また、これまで以上にスター選手が多く出場したので、想定以上の集客があり、海でのセキュリティーが問題となったり……。そういった点で、全体的にバタついてしまった部分があったと思います。
テストを重ねる重要性を痛感
ワールドゲームスまでの日程を終えてみて、東京に向けて正直「時間がないな」と思いました。オリンピックに向けた大事な準備の1つに「テストイベント」があります。これは、本番を想定して競技運営のさまざまな確認をするために実施され、通常は各競技1回しか行われません。でも、サーフィンはこれでは間に合わない。自然を相手にするスポーツなので、競技運営には天気や波の状況などに合わせたフレキシブルな対応が求められます。組織委員会には一度もサーフィンの大会運営に携わったことのない方も多いので、できれば事前にもう何回か、テストをして本番に臨めればと思っています。 これは後から聞いた話ですが、同じ海上競技のセーリングは、テストイベントを何回か実施した上で本番に臨むそうです。やはりアウトドア競技はテストを重ねることが重要なのだなと痛感しました。

テストイベントは1回だけだとてっきり思っていましたから、私自身、予想外の展開でした。でも、このタイミングでこうした課題が見つかって良かったと思います。実際、組織委員会内の他のチームの方とも、「早くテストしないといけないね」という共通認識ができました。今後、テストができるような別の大会を探す予定です。 ワールドゲームスは大いに盛り上がり、サーフィンが今までより一つ上の大会になったなと感じました。ただ、それに対応するための準備が足りていませんでした。今回の反省を踏まえ、初心に戻ってもう一回、気を引き締めて準備を進めていきたいと思っています。
プロフィール
井本 公文(いもと きみふみ) 1971年生まれ、静岡県在住。サーフィンとスノーボードの選手として全日本選手権に出場し、専門店も起業。サーフィンの審判員を経て、一般財団法人日本サーフィン連盟の理事に就任。チームジャパン代表監督として、世界選手権や世界ジュニア選手権に参加。日本サーフィン連盟副理事長、強化委員長を務めながら、17年7月より、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のサーフィン競技スポーツマネジャーに就任。
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