佐々木則夫×眞鍋政義、特別対談<前編>
澤、竹下ら女子選手への指導術とは?

佐々木則夫さん(左)と眞鍋政義さん(左)の対談が実現。女子選手との接し方をテーマに話を聞いた
佐々木則夫さん(左)と眞鍋政義さん(左)の対談が実現。女子選手との接し方をテーマに話を聞いた【坂本清】

 開催まであと2年を切った東京五輪・パラリンピックを見据え、選手を指導、チームを指揮する監督がいる。選手と歓喜を共にする一方、チーム内の問題にも対処しなければならず、経験者でないとその重責は計り知れない。一体どんな“感覚”でその役割を務めているのだろうか。

 今回、女子サッカー前日本代表監督の佐々木則夫さん(現・大宮アルディージャトータルアドバイザー)と、女子バレー前日本代表監督の眞鍋政義さん(現・ヴィクトリーナ姫路ゼネラルマネージャー)の対談が実現。前編では男性監督として女子のナショナルチームを率いた共通の経験から、女子選手との接し方をテーマに両氏の「監督のカンカク」を聞いた。(文中敬称略)

「気取らず飾らず」に選手と接する

――佐々木さんは女子サッカー、眞鍋さんは女子バレー、男性監督が女性チームを率いてワールドカップ(W杯)や五輪でメダルを獲得されました。異性を指導する難しさもあるかと思いますが、それを補うためにどんな工夫をされていましたか?

佐々木 今は男子、女子に関わらず選手を教えるのは難しいですよ。眞鍋くんは意外と繊細なんですが(笑)、私は少しざっくりと、ここからここまでは関知しなくてもお互い認識できる、女性同士ならばもっと深く関わっていくところも関わらなくても大丈夫という関係性を築くために、まず僕自身の性格を早く知ってもらいたい、とアプローチしていました。

 そのうえで、もちろん指導をする中で言葉遣いは気をつける。男性同士ならば何とも思われないような単語を使うと嫌悪感を抱かれることもあるので、この言葉は俺が悪い、でもここまでは理解してよ、という感じでやっていましたね。第三者からはよく「女性を教えるのは大変でしょ」と言われましたが、あまり自分を飾らず、僕はこうなんだと知ってもらって理解していただいた。マイペースで接してきましたね。

眞鍋 僕は全然繊細じゃないですよ(笑)。自分を飾らないというのは僕も同じです。カッコつけて気取ると変な風に思われますから。でも佐々木さんの場合はオヤジギャグでうまくコミュニケーションを取られていたんですよね?(笑)

佐々木 ギャグは別に手段じゃないよ(笑)。でも、俳優じゃないけれど時には演じることもありました。叱らなきゃいけないと思ったらバッと叱る。それも突然怒るのではなく計算ずくでやっていること。男子に対してはある程度感情を出して、「ふざけるな、集合しろ」と言っても通用するけれど、女性に感情的な指導はよくない。修正するのが非常に難しいので、叱る時は特に演技をしているというか、自分の中のシナリオを演じるという感覚はありましたね。

カギは選手とのコミュニケーション

選手とのコミュニケーションを欠かさなかった佐々木さん(右)。特に澤(左)とは信頼関係ができていたという
選手とのコミュニケーションを欠かさなかった佐々木さん(右)。特に澤(左)とは信頼関係ができていたという【写真:ロイター/アフロ】

佐々木 眞鍋くんはどう?

眞鍋 そうですね。メリハリはつけていました。まず根本的に、サッカーはバレーよりもはるかに人数が多いですよね?

佐々木 (登録人数は)五輪が18人、W杯は23人かな。バレーは?

眞鍋 五輪は12人です。人数が多い分大変ですよね?

佐々木 もちろん僕も全体を見るけれど、1人ですべては把握できないので、スタッフみんなでタッグを組む。そこがぶれてしまい「監督はこう言っているのに、この人は違う」と思われてしまうと困るので、運営サイドと、メディカル、テクニカル、3つのスタッフのコンビネーションによって、スムーズに進行できたと思います。

 時には特定の選手と密にコミュニケーションを取らなければならないこともあって、そういう時に「またノリさんはあの子とばっかりしゃべってる」とねたまれることもあるかもしれない。だからそういう時はうまく周りのコーチやスタッフを使って、なぜ今この選手と話しているのかを他の選手に何気なく伝えてもらって、僕はそんなふうに特定の選手にだけ特別扱いするような人間じゃないということも理解してもらう。

 スタッフとのコンビネーションは、選手のマネジメントをする上で最も大切です。そのネットワークはとても大きいし、体のメンテナンスをしてくれるトレーナーに本音を話すことが多いので「今日の練習はきつい」とか「ノリオがさぁ」と選手が話していたことを共有したり(笑)。深い話をする選手に対しても特別な空気を醸し出すのではなく、合宿中の朝に会ったら「おはよう。しっかり寝たか」とさりげなく声をかけておき、その後「飯食ったか、練習前にちょっと時間くれる?」ってさりげなく種をまくと深い話もスムーズに進むことが多かった。そうしないと身構えてしまうから。僕がすべてを把握するのは無理なので、スタッフ陣と連携を取って進行できたというのがとても大きいですね。

眞鍋 バレーも一緒です。同じようにスタッフの数が多いので、ある程度みんなで選手を見てもらわないとうまく回らないですね。それからバレーの特徴としては、僕が監督をした8年間(09年から16年)、代表合宿の期間中はほとんどテレビ局が密着取材で入っていました。それをマイナスに捉えるのではなく、コーチ陣だけでなく、メディアとも連携して、たとえば調子が悪い選手にあえてインタビューをしてもらってモチベーションを上げたり、「監督が期待していると言っていましたよ」とさりげなく伝えてもらったり。もちろん個人差があるのでそれも見極めが必要ですが、うまくコントロールしてもらったと思います。スタッフだけでなく選手の中でもよく見ている選手というのがいて、僕が監督の頃は竹下(佳江)がそうでした。竹下と澤(穂希)さんは似ていませんか?

佐々木 そうかもしれないね。でも世間が思うのと違って、澤は僕に対してはきつくないですよ(笑)。信頼関係ができていましたね。彼女がキャプテンだった時はもちろんだし、キャプテンを外れてからも僕をサポートしてくれたし、僕が伝えたいことを選手にもうまく伝えてくれた。キャプテンとして信頼関係がありましたね。もちろんいろいろと指摘もしていただきましたけど(笑)。

 それは澤のみならず、他の選手にも何か気づいたことがあれば言ってくれ、という状態にしていたので、いろいろとみんなね(笑)。たとえば川澄(奈穂美)もそう。ある時、右サイドハーフだった川澄とトップの丸山(桂里奈)のポジションを延長試合の途中で入れ替えた。その直後、そのサイドから攻撃を仕掛けられ失点してしまった。そうしたら延長の短いハーフタイムの時に川澄が「ノリさん、やっぱり私が右サイドでやったほうがいいんじゃないですか?」と。確かにそうだなと思ったので実際、試合中に意見を参考に再度代えたこともありましたね。

眞鍋 僕は(自身と)同じセッターでもある竹下や、年齢が上の選手とは特に数多くコミュニケーションを取っていました。合宿期間も長いので、監督になったばかりの頃は、その時間をうまく使って、お酒を飲みながらコミュニケーションを図ったこともあります。女性ってグループになるじゃないですか。だから今日はこのグループ、今度はこのグループと、女子が好きそうな甘いチューハイを飲みながら、バレーの話だけでなくいろいろな話をしてお互い心をオープンにしようと思って取り組んでいたのですが、想像以上に疲れたので、だんだん回数が少なくなりました(笑)。

田中夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当