上野の熱投から10年、再び金への強化策
ソフトボール界が目指す五輪とその先の夢

舞台は東京、ゴールドに託された思い

6月の日米対抗ソフトボールで力投する上野
6月の日米対抗ソフトボールで力投する上野【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

「上野由岐子の413球」から10年――。

 ソフトボール女子日本代表は現在、2年後に行われる東京五輪を見据えて強化を進めている。その試金石となるのが、今年8月に千葉県で開催される世界選手権だ。日本ソフトボール協会の三宅豊副会長が語る。

「世界選手権は東京五輪の前哨戦です。近年、アメリカとの対戦では結果や内容が上がってきているので、強化の方向的には順調と言っていいと思います。日本は北京五輪で優勝しているので、東京五輪で目指すのは金しかありません」

 日本代表の絶対的エースとして上野が2日間で3試合に完投、計413球を投げて金メダル獲得に導いた2008年北京大会以来、ソフトボールは3大会ぶりに五輪の追加種目として実施される。しかも、開催地は東京だ。

 最高の舞台で最高の結果を手にするためのプロジェクトは、13年に始まった。東京五輪で正式競技に復活することを前提に、「ターゲットエイジ」と定めた24歳以下の選手たちを2チーム分選抜し、5年計画で発掘・育成・強化してきた。

 そうしてチームの底上げを図る一方、日本代表のトップチームは16年から年間100日を超える強化日程を組み、合宿や大会出場を重ねた。東京五輪まで残り3年を切った今年、強化プロジェクトはトップチームに絞られ、代表選手25人前後が個々のレベルアップ、チームワークの向上を図っている。

 並々ならぬ意気込みは、日本代表の愛称として6月に始動した「SOFT JAPAN」のロゴが象徴的だ。「金色でマークを作りました。まさにゴールドをイメージして作っています」(三宅副会長)

「五輪は大事、その先はもっと大事」

2008年の北京五輪で金メダルを獲得した日本チーム
2008年の北京五輪で金メダルを獲得した日本チーム【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 多くの競技にとって、五輪はこれ以上ない晴れ舞台と言える。選手たちは4年に1度の“本番”に照準を定める一方、各協会にとってはより多くの人に魅力をアピールする好機になる。三宅副会長が説明する。

「ソフトボールは下手投げからスローなボールを投げると思っていた人たちに、投手は腕を回転させて、すごいスピードで投げることを分かってもらえます。中には、『腕をぐるぐる回して投げるんだね』と言う人もいます。いや、『ぐるぐる回すんじゃなくて、1回ぐるっと回すだけだよ』って(笑)。五輪で初めて見た人は、そういう競技の特徴を一気に知るわけです」

 現在66歳の三宅副会長は現役時代、その「ぐるっと回す」投げ方、いわゆる「ウインドミル投法」を導入した先駆者だ。「あいつは何をしているんだ、と言われました(笑)」と冗談交じりに振り返るが、50年以上前からソフトボールに心血を注いできた。現在は協会の副会長として東京五輪での金メダルを目指しながら、“その先”にも視線を向けている。

「五輪で勝つことは大事だけど、その先を見据えて競技をいかに発展、普及させるかはもっと大事です。ソフトボールを生活の中に浸透させていって、各地域でより多くの人にプレーしてもらいたい。そうやって日本にスポーツの文化を作っていかないと、ブームは一過性で終わってしまいます」

 日本列島がソフトボール女子代表の活躍に沸いた08年の夏以降、日本女子リーグの会場には大観衆が詰めかけた。しかしブームは徐々に下火になり、観客動員はいつしか北京以前に戻っていた。

 実を言えば、北京の金メダルでソフトボールの競技人口が増えたわけではない。世間の認知度が上がったのは確かだが、自分でプレーしてみようと思う人は増えなかった。加えて1995年頃から加速する少子化や、学校スポーツをめぐる環境の変化、個人競技の人気の高まりなど複合的な事情を背景に、ソフトボールの登録人数は減少している。

 こうした傾向に歯止めを打つべく、日本ソフトボール協会は野球とともに、学校体育で「ベースボール型」授業の導入を実現させた。現在は未就学児に魅力をもっとアピールするべく、プロジェクトをスタートさせようと話し合っている。10年前の反省を生かし、東京の成果を“その先”につなげようとしているのだ。

中島大輔
中島大輔
1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。著書に『人を育てる名監督の教え すべての組織は野球に通ず』(双葉新書)。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』がミズノスポーツライター賞の優秀賞。